前山ぜんざん)” の例文
逡巡しゅんじゅんとして曇り勝ちなる春の空を、もどかしとばかりに吹き払う山嵐の、思い切りよく通り抜けた前山ぜんざん一角いっかくは、未練もなく晴れ尽して、老嫗ろううの指さすかた巑岏さんがん
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わが最初の寓目ぐうもくの感は如何いかん、われは唯前山ぜんざんの麓に沿うて急駛きうし奔跳ほんてうせる一道の大溪とかたはらに起伏出沒する數箇の溪石とを認めしに過ぎざりしといへども、しかもその鏘々さう/\として金石を鳴らすが如き音は
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
背後うしろの山に落ちかけた夕陽の光が、紅葉しかけた前山ぜんざんの一角を赤赤と染めていた。彼は水際みぎわにおりるのをめて藤葛を見つめていたが、どうもその藤葛に山上へ登る秘密があるように思われて来た。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)