前借ぜんしゃく)” の例文
前借ぜんしゃくなどという事は計ってくれませんし、前借のできる勤め奉公では——お茶屋、湯女ゆな船宿ふなやど、その他、水商売など種々いろいろございますが
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども今になって見ると、多少の前借ぜんしゃくの出来そうなのはわずかにこの雑誌社一軒である。もし多少の前借でも出来れば、——
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
川岸かし女郎じょろうになる気で台湾たいわんへ行くのアいいけれど、前借ぜんしゃく若干銭なにがしか取れるというような洒落た訳にゃあ行かずヨ、どうも我ながら愛想あいその尽きる仕義だ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「もし工合がいいようだったら知らしてあげるから、ことによったらお前さんも来るといいわ。少しは前借ぜんしゃくも出来ようというんだからいいじゃないか。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一時には払えないだろうから、毎年百万円ずつ五年間だ。百万円だっていま君が持っているとは思わないが、会社から前借ぜんしゃくすることは出来る。君はそれだけの力を持っている。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こう云う生活欲にられていた彼は勿論原稿料の前借ぜんしゃくをしたり、父母兄弟に世話を焼かせたりした。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし金を借りることは、——少くとも金を借りたが最後、二十八日の月給日まで返されないことは確かである。彼は原稿料の前借ぜんしゃくなどはいくらたまっても平気だった。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)