刺客せっかく)” の例文
兵部は、とたんに、刺客せっかくの一人かと——鋭い眼を投げたが、同心との対話のうちに、何もかも、解けたらしく、知らぬ顔を装っていた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが記者たりし時世に起りし事件にていまに記憶するは星亨ほしとおる刺客せっかくに害せられし事と清元きよもとようの失せたりし事との二つのみ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのうちエリザベス(エドワード四世の妃)が幽閉中の二王子に逢いに来る場と、二王子を殺した刺客せっかく述懐じゅっかいの場は沙翁さおうの歴史劇リチャード三世のうちにもある。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それだから刺客せっかくになっても、人を殺しても、なんのために殺すなんという理窟はいらないのだ。殺す目当になっている人間がなんの邪魔になっているというわけでもない。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何洩なにもれましょう。武者隠しの内も、ふすまのとなりも、あなた様のお声を待つ刺客せっかくの刃あるのみです。——殿、御聡明なるわが殿。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは云う、八人の刺客せっかくがリチャードを取り巻いた時彼は一人の手よりおのを奪いて一人をり二人を倒した。されどもエクストンが背後よりくだせる一撃のためについにうらみんで死なれたと。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事難ことむずかしいと見て、内にひそんでいる刺客せっかくが、腕をうずかせたためかもしれない。だが、光秀の口からはなお何の合図もない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蚊㡡かや越しではあるが、九尺の大床のわきには、武者隠しの小襖こぶすまがある。その金砂子きんすなごは、内にかくしてある刺客せっかくの呼吸と殺気とに気味悪く燦々きらきらしているではないか。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その事件が関東方の神経をとがり立てていた時なので、ピオも忽ち嫌疑をうけて、数多あまた刺客せっかくに狙われた。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(いつか、来るはずのものが来たのだ。赤穂の浪士——かれらの刺客せっかくだ。もうやむを得ん)
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)