おう)” の例文
道から約二十尺ほど高い崖の一部に深い裂けめがあり、ちょうどおうの字のような形をしていて、人間ひとりなら楽にはいれるほどの幅があった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕は欄干らんかんにつかまって、下方を覗きこんだ。曲面を持ったおうレンズ式の展望窓は、本艇の尾部の方を残りなく見ることが出来るようになっていた。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「プッ、かえって小さく見えるワ、——私は何んという馬鹿でしょう、同じ毛細管の現象でも、これはおうレンズよ、穴の大きさに比べて、水が少なかったんだワ」
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その隣家となりに三十ばかりの女房一人住みたり。両隣は皆二階家なるに、其家そこばかり平家にて、屋根低く、軒もまたささやかなりければ、おおいなるおうの字ぞ中空に描かれたる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
正面の新郎や新婦をはじめ、白いおう字形のテエブルに就いた五十人あまりの人びとは勿論いずれも陽気だった。が、僕の心もちは明るい電燈の光の下にだんだん憂鬱になるばかりだった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
正面に主人の熊谷三郎兵衛と夫人の由喜子、モーニングと紋付で、いとも悠揚と控え、それを中心にして三十人の粒選りの客は、おう字形の卓に行儀よく居並びました。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)