冷切ひえき)” の例文
秋の夕陽ゆうひ欄干てすりの上にさし込んでいて、吹き通う風の冷さにおおうものもなく転寐うたたねした身体中は気味悪いほど冷切ひえきっているのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今まではさも殊勝なりし婦人おんないなずまのごとき眼を新聞に注ぐとひとしく身をそらし、のびを打ち、冷切ひえきったる茶をがぶり、口に含み、うがいして、絨毯じゅうたんの上に、どっと吐出はきいだ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兼太郎は路地へ戻って格子戸を明けると内ではもう亭主がいびきの声に女房が明ける箪笥たんすの音。表の戸をしめて兼太郎は二階へ上り冷切ひえきった鉄瓶てつびんの水を飲みながら夜具を引卸ひきおろした。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)