其処此処そここゝ)” の例文
旧字:其處此處
高柳利三郎と町会議員の一人が本町の往来で出逢であつた時は、盛んに斯雪を片付ける最中で、雪掻ゆきかきを手にした男女をとこをんな其処此処そここゝむらがり集つて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
すぐうしろの寺の門の屋根やねにはすゞめつばめが絶えなくさへづつてゐるので、其処此処そここゝ製造場せいざうば烟出けむだしが幾本いくほんも立つてゐるにかゝはらず、市街まちからは遠い春の午後ひるすぎ長閑のどけさは充分に心持こゝろもちよくあぢははれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さて男は其処此処そここゝと父を探して歩いた。やうやく岡の蔭の熊笹の中に呻吟うめき倒れて居るところを尋ね当てゝ、肩に掛けて番小屋迄連れ帰つて見ると、手当も何も届かない程の深傷ふかで
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
見渡す青田の其処此処そここゝに蓮の花が咲き初めた頃であつた。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)