元町もとまち)” の例文
「両国橋を渡つた人はね。……それでも元町もとまち通りには高圧線の落ちたのにれて死んだ人もあつたと言ふことですよ。」
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「中の郷元町もとまちの御旗本大月権太夫様のお屋敷へ伜の名代みょうだいとして罷り出まして、先ごろ納めましたるお道具の代金五十両を頂戴いたしてまいりました」
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旅なればこれも腹は立たず。元町もとまちを線路に沿うて行く。道傍の氷店に入ってラムネ一瓶に夜来の渇望も満たしたればこゝに小荷物を預けて楠公祠なんこうしまで行きたり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
南へ突っ切れば元町もとまちとなって、そこを東の方へ曲がって行けば、お茶の水の通りとなる。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それがすんで、外へでたが、そこで金谷先生といっしょになり、元町もとまちの方へ抜けて学校へもどることになった。そのとき万国骨董商チャンフーの店の前を通りかかったのである。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とっかかり草鞋わらじを脱いだのが、本郷元町もとまちにあった間淵の下宿で、「やあ、よく来たね、」は嬉しいけれども、旅にして人のなさけを知る、となると、どうしてもわびしい片山家かたやまがの木賃宿。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この間も、元町もとまちに火事があった時、水道橋で衝心を起して死んだ男がありましたよ。呼びに来たから、行って診察しましたがね。非常に心臓が弱い癖に家から十町ばかりも駈け続けたらしいのですよ。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこは僕の住んでゐた元町もとまち通りにくらべると、はるかに人通りも少なければ「しもた」もほとん門並かどなみだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若しその中に少しでも賑やかな通りを求めるとすれば、それはわづか両国りやうごくから亀沢町かめざわちやうに至る元町もとまち通りか、或ははしから亀沢町に至るふた通り位なものだつたであらう。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)