健康たつしや)” の例文
病が病だから、蓮太郎の方では遠慮する気味で、其様そんなことで迷惑を掛けたく無い、と健康たつしやなものゝ知らない心配は絶えず様子に表はれる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「挨拶なんかせんでも宜い/\、健康たつしやな顔さへ見りや、それで沢山や、」と言つて「あはゝゝゝゝ」と又嬉しさうに笑つて縁に腰掛けて汗を拭いた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
骨は砕けて、身体からだ血塗ちまみれになつたが、不思議と生命いのちだけは取り留めて、それからはずつと健康たつしやでゐる。バリモントは後にその折の事を思ひ出して
今ま直ぐと云ふわけにもなるまいが、何卒どうぞ伯母の健康たつしやな中に左様さうしなさい、山姥やまうば金時きんときで、猿や熊と遊んで暮らさうわ、——其れは左様さうと、今度は少し裕然ゆつくり泊つて行けるだらうの——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ホラ、君の読んで下すつたといふ「現代の思潮と下層社会」——あれを書く頃なぞは、健康たつしやだといふ日は一日も無い位だつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「へへへ……面白いですな、あれだから健康たつしやになりまさ。」と親達が感心して見惚みとれてゐると、高木氏はづかづかとやつて来た。そしてしやがれた声で
「身体さへ健康たつしやになりや。又どうでもなるさかい、何でも養生して早う癒つて呉れいの。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
道徳といふのは、自分自身に対する事で、まあ手つ取り早く言つたら、自分の身体からだ健康たつしやにする事から始まるのだ。
病のある身ほど、人の情のまこといつはりとを烈しく感ずるものは無い。心にも無いことを言つて慰めて呉れる健康たつしや幸福者しあはせものの多い中に、斯ういふ人々ばかりで取囲とりまかれる蓮太郎のうれしさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
身体からだ健康たつしやにするのには、色々方法はあるが、そのなかで一番簡便で、一番効力ききめがあるのは結婚をする事だ。
医者の診察室には、病人も来れば健康たつしやな人も来る。医者は一々それをて、病人には病気でないやうな気安めを、健康たつしやな人には病気がある様な言葉をかけなければならぬ。
大阪大学病院の桜根孝之進さくらねかうのしん博士は、ふしだらな病人達には、皮華ひくわ科のお医者さんとして知られてゐるが、健康たつしやで、お行儀のいゝ人達には、熱心な羅馬字普及論者として知られてゐる。