倦怠だる)” の例文
明けても暮れても雨と暑さ、そしてこの倦怠だるさと一日一日灰色に乾干ひからびてゆく心! こんな世界に、何が始まり得るというのだろう。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ある日、女は、森に来て、かの怪しな鳥が、倦怠だるそうに大きな、光沢のある、柔らかな翼を、さも持てあまして、二羽が、互にもつれ合って巣を作っているのを見ていた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると森本は倦怠だるそうに浴槽のふち両肱りょうひじを置いてその上に額をせながら俯伏うっぷしになったまま
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と驚いたジョン少年は思わず声を筒抜かせたが、それより一層驚いたのは足を折られた大烏で、バタバタと枝から離れると、さも倦怠だるそうに羽摶はばたきながら、森を潜って舞って行く。
倦怠だるそうに居直って
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして暑くなると、海に入って行こうといって、どこでも構わずしおつかりました。そのあとをまた強い日で照り付けられるのですから、身体からだ倦怠だるくてぐたぐたになりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三沢は先刻さっきから女の倦怠だるそうな立居に気をつけていたので、御前もどこか悪いのかと聞いた。女はさびしそうな笑いを見せて、暑いせいか食慾がちっとも進まないので困っていると答えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌日あくるひ眼を覚した時は存外安静であった。彼は床の中で、風邪はもうなおったものと考えた。しかしいよいよ起きて顔を洗う段になると、何時もの冷水摩擦が退儀な位身体からだ倦怠だるくなってきた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)