うつむ)” の例文
『僕は実際困つた。今舎監室へ頼みに行つて来たのだが、駄目ぢやつた。僕はもう学校を退くことに決心した』と云つてうつむいた。
「駄目だよ。旦那だんなが気がないから」さくと云うその男はうつむいたまま答えた。「もう楮のなかから小判の出て来る気遣きづかいもないからね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
やがて四人打ちそろって外へ出てみたのであったが、葉子は部屋にいたときと同じく、始終物思わしげに、うつむきがちに歩いており、清川の靴の音だけが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父は火鉢によつてうつむいて色々と考へて居る——。
やっぱりそうだ! と銀子は思ったが、きっぱり断わるでもないと思って、黙ってうつむいていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
才気ばしったお愛相あいその好い師匠を中心に、しばし雑談に時を移したが、その間も葉子は始終うつむきがちな蒼白あおじろい顔に、深く思い悩むらしい風情ふぜいを浮かべて、黙りとおしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父親は黙って煙管をくわえたままうつむいてしまったが、母親は憎さげにお島の顔をみつめていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島は頭脳あたまが一時にかっとして来た。女達の姿の動いているあかるいそこいらに、旋風つむじがおこったような気がした。そしてじっとうつむいていると、体がぞくぞくして来て為方しかたがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鼻のたかい、色白の、上脊うわぜいのあるその青年は、例の電球二つを女の乳房ちぶさのようにつけた仏蘭西製フランスせいのスタンドの、憂鬱な色をしたシェドのかげに、うつむき加減に腰かけていたものだったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お座敷の取做とりなしなどについて、何か言つて聞かせても、いつもうつむいて何時までも黙つてゐる子が一人あるのに、かね/″\ごふを煮やしてゐた矢先きなので、咲子のてきぱきしたのが
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「忰ですかね。」爺さんは調子を少し落してうつむいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
均平が黙ってうつむいているので、銀子はきいた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)