やつ)” の例文
古道具買に身をやつした、香具師の親方の猪右衛門である。両手に人形を持っている。非常に非常に機嫌がよい。独り言を云っている。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
叔父は売薬商人にやつしていったのだが、どの家でも泊めようとしなかったし、ふいに物蔭から、石や棒切れを投げられたりした。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一日中炎天の下に旅行用のヘルメットをかぶって植木鉢の植木をさいなんだり、飼ものに凝ったり、猟奇的な蒐集物しゅうしゅうぶつに浮身をやつしたりした。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いやさ改心して頭髪あたまを剃こぼち、麻の法衣ころもに身をやつし、仏心ぶっしんになると云ったではござらぬか、その仏に仕える者が繊弱かよわい婦人をの如く縛って置くをなぜ止めん、なぜ助けん
真実ほんとうにわたしによく似た方もあるもの、この人なれば、仲間うちのものが、下町風に身をやつした自分とも思い違えて、こちらの袖に物をかくすほどのことは無理からぬこと、さぞや
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
それでダンスに浮身をやつすほどの若い芸者たちさえ「大師匠にはどこというところも無いが、あゝいうところはやっぱり惚れ/\するわね」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つまり私は乞食に身をやつして隠密をしているのでございます。庄内川の岸に寝ていたのも、持田家の周囲を立ち廻ったのも、そのためなので。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ハイ、今から二十日ほど前、乳母を連れて清水寺に参詣に参った帰路、人形使いに身をやつした恐ろしい恐ろしい人買ひとかいに誘拐されたのでございます」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その民弥の苦しい心を、見抜いて現われて出たかのように、窓からヒョッコリ顔を出したのは、古道具買に身をやつした、香具師やしの親方猪右衛門ししえもんであった。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勢州せいしゅう産まれの乞食こじき権七ごんしち、そんなものにまで身をやつし、尾張家のためとはいいながら、あの立派な船を焼きはらったことは、もったいなく思われてなりません。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで「城をこっそり抜け出し、卑しい女に身をやつし、自由に二、三日遊んで見たい」という、こういう希望のぞみの起こって来たのは、当然なことということが出来よう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そういう者に身をやつした、二百人あまりの同勢が、無関心な様子はとりながらも、隅田のご前を警護して、先になったり後になったり、歩いて行くのに気が付くであろう。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
独楽師に扮した一人の浪士は「旨い!」と思わず呟いた、居合抜にやつしたもう一人の浪士は、「ウーン」と深い呻声を洩らし、商人に扮した二人の浪士は顔と顔とを見合わせた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「卑しい女に身をやつし、こっそり城を抜け出して、せめて二、三日遊んで見たい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大水たいすいを取り入れるために作り設けた、取入口を探ったり、行き倒れ者に身をやつして、船大工の棟領持田の家へはいり込み、娘をたぶらかして秘密を探ったり、最後にはこの屋敷へ忍び入り
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「姿はさまざまにやつしては居れど、浪士方と存ぜられます」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)