以前まえかた)” の例文
この屋敷に相違ない! 妾が以前まえかた送られて来て、酒顛童子のようなお爺さんに、恐ろしい目に逢わされた屋敷! それはここだ
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「へえ。知ってますよ。知ってまさあね。あっしゃあね、以前まえかたよく、三組町の御小人長屋へ行きやしたから——」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
以前まえかた訪ねて来た時と、何んの変わったこともない。窩人達の住居すまいには人気なく、宗介天狗の社殿やしろには裸体の木像が立っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、館の奥の書院の間で、塗り机にひじをもたせかけ、以前まえかた偶然行ったことのある、金剛山の谷間たにあいの城門のような岩壁のことを、思い出していた桂子は云った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時、忽然こつぜん弓之進は、以前まえかた死んだ葉之助が、「代りが来るのだ! 代りが来るのだ! 次に来る者はさらに偉い!」と末期いまわに臨んで叫んだことを偶然ゆくりなくも思い出した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……以前まえかたご老師一行が青母衣あおほろ組の奴ばらに捕虜とらわれの身となられましたのを私計らず窺い知り、驚いて部落へ取って返し、この次第申し上げたその際にも涙一つおこぼしなく
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
既に以前まえかた記したように、元来甚内は追分にかけては、からきし唄えない人間であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……以前まえかた私は山火事を起こし彼らの集会あつまりさまたげたことがある。もっとも真実まことの山火事ではない。ただそう思わせたばかりであっていわば幻覚まぼろしに過ぎなかったが彼らは恐れて逃げてしまった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは以前まえかた馬大尽事、井上嘉門を迎えに出た、高萩村の博労達であったが、その連中が縦六尺、横三尺もあるらしい、長方形の白木の箱に、献上と大きく書き、熨斗まで附けた物を肩に担ぎ
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
以前まえかた京師けいしにありし時、汝の噂を耳にしたり、女だてらに党をつくり、義をあつめるとは猪口才ちょこざい千万! いで五右衛門が退治てくれる! まずその前に素姓を云え! 素姓を名のれ! 名を名のれ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「このお嬢様も名を宣らないて。お嬢様お名前をおきかせくだされと俺が以前まえかたお訊ねしたら『追い慕っている女でございます』とこうお返辞くだされたばかりさ。アッハッハッ追い慕っている女か!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
以前まえかた係蹄わなをかけて置いた林の奥まで引っ張り寄せ
その方以前まえかた何んと申した。