仕舞じまい)” の例文
到頭彼は打明けようと思うことも言わず仕舞じまいに、ただ嫂の側で看護の時を送ったというだけに留めて、病室を離れて来てしまった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
出鱈目でたらめを云い通したんでしょう。お上でも分らず仕舞じまい、米屋の隠居所でも、泣き寝入りとなっています』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後でかれの内儀さんが、浅草のどこかに勤めていることを聞いたが、その勤め先に仕事仕舞じまいから晩に出掛けていたらしく、ごたごたがあって相当永い間民さんは夜もねむれないことがあるらしかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
最初の一箇月は何が何やら分らず仕舞じまいに過ぎてしまって、次の月の晦日に及んだ時、お千代は家賃と米屋炭屋酒屋肴屋等の諸払いを済すとそれでう手元には一円札の一、二枚がやっと残ったけで
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それあそうだろうさ。心理遺伝に支配された事件は大抵神秘の雲に包まれたっきり、わからず仕舞じまいになるのが、昔からの吉例になっているんだからね。新聞に出た奴だけでも、どれ位あるか判らん」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
到頭、言わず仕舞じまいに、牧野君の家の門を出た。そして、おさえがたい落胆と戦いつつ、元来た雪道を岩村田の方へ帰って行った。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
年暮くれの二十五日を稽古仕舞じまいとして、春の道場開きまで、そこは閉っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は最早もう自分の情熱を寄すべき人にも逢わず仕舞じまいに、この世を歩いて行く旅人であろうかと自分の身を思って見た。そう考えた時は寂しかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
押しつまって、御用仕舞じまい年暮くれの廿五日。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべてこれらの父に関する記憶が旅にある岸本の胸にまとまって来た。早く父に別れた彼は多くの他の少年がけ得るような慈愛もろくろく享けず仕舞じまいであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)