人烟じんえん)” の例文
なるほど静かなものだなあ、まるで四方千里、人烟じんえんを絶した山谷さんこくの中に置き放されたような心持がする。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
武芝は武蔵国造むさしのくにのみやつこの後で、足立あだち埼玉さいたま二郡は国中で早く開けたところであり、それから漸く人烟じんえん多くなつて、奥羽への官道の多摩たま郡中の今の府中のあるところに庁が出来たのであるが
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
せまいと汚穢きたなさとは我慢するとしても、ひとの寒さは猛烈もうれつに彼等に肉迫にくはくした。二百万の人いきれで寄り合うて住む東京人は、人烟じんえん稀薄きはくな武蔵野の露骨ろこつな寒さを想い見ることが出来ぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてここを別れて立ち、ひるごろには久しぶり人烟じんえんにぎやかな古色の街へ入っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上山を発してからは人烟じんえんまれなる山谷さんこくの間を過ぎた。縄梯子なわばしごすがって断崖だんがい上下しょうかしたこともある。よるの宿は旅人りょじんもちを売って茶を供する休息所のたぐいが多かった。宿で物を盗まれることも数度に及んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)