中天ちゅうてん)” の例文
それとも党勢不振の際、誓って落日を中天ちゅうてん挽回ばんかいせずんばやまずと云う意気込みで、あんなに横風おうふうに顔一面を占領しているのか知らん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時はもう雪も止んで、十四日の月が皎々こうこうとして中天ちゅうてんに懸っていた。通りの町家は皆寝鎮ねしずまっていた。前を見ても後を見ても、人通りはない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
陽は、ちょうど中天ちゅうてん。四月初めとはいえ、雲は、夏近いすがたを示し、将士の顔は、どれもこれも、土と血と汗にまみれて、燃えるような色をしていた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、またもやごうぜんたる音がして、全船ぜんせん震動しんどうした、同時に船は、木の葉のごとく巨濤きょとうにのせられて、中天ちゅうてんにあおられた。たのみになした前檣ぜんしょうが二つに折れたのである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
敬二少年は、もうすっかり目がえてしまった。寝ていても無駄なことだと思ったので、彼は寝床から起き出して、冷々ひえびえした硝子ガラス窓に近づいた。月はいよいよあきらかに、中天ちゅうてんに光っていた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
銀河中天ちゅうてんおいの力をそれに得つ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ときにはもう中天ちゅうてんにあって、地熱はおもてをき、汗は塩になって、どの顔も眼ばかりがらんとしていた。血、泥、草ぼこり、およそ傷を持たぬ人も馬もなかった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八月十五日の名月が、いま中天ちゅうてん皎々こうこうたる光を放って輝いているのだった。……
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今朝来こんちょうらいの善戦を謝し、すでに十数合の戦いをしてきたこと、かつは中天ちゅうてんを過ぎて来、いかに死力をしぼりきっても、肉体の精力にはかぎりがある、おそらく次の突撃が
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど月の中天ちゅうてんにかかる頃、官兵衛と秀吉の船も、琵琶湖びわこの中ほどまで来ていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)