不見転みずてん)” の例文
不見転みずてん以外は帰ってしまうが、大阪は、時として夜が更けると、雑魚寝があるし、席貸へ行って夜明かしもするし、——つまり、飽きる所まで
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まして、繻子しゅすの襟も、前垂まえだれも、無体平生から気に入らない、およそ粋というものを、男は掏摸すり、女は不見転みずてんと心得てる、鯰坊主なまずぼうずの青くげだ、ねえ竹永さん。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、そんなことではありません。商売人の不見転みずてんなんかに手出しをなさるよりは、はっきりこれこれときまってる方が、まだよいと思っていますわ。」
人間繁栄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「武士は食わねど高楊枝たかようじ」の心が、やがて江戸者の「宵越よいごしぜにを持たぬ」誇りとなり、更にまた「ころ」「不見転みずてん」をいやしむ凛乎りんこたる意気となったのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
こっそり一人で不見転みずてん買いでもする方が結句物費ものいりが少く世間の体裁もよいと云う流義。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
心得ずに購い来ったというものの、手当り次第に不見転みずてんで買って来たのではありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それまでは良かったが「不見転みずてん」というと仰向けに寝て、腹をだして妙な格好をする。
(新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
「それあうしたつて、こんな処にゐるものには、悪い病気がありますからね、不見転みずてんなんか買ふよりか安心は安心だけれど……。」彼女は幾分おどかし気味で、そんな事を話したが
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いよ/\。転びぐらい常識でも分る。不見転みずてんという言葉もあるじゃないか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「所蔵品目録だつて」平岡氏は出て来る骨董屋の顔をじろりと横目でにらみながら、巻舌まきしたで言つた。「江戸つ子がそんな目録つきで品物の取引なぞして溜るもんかい。欲しかつたら不見転みずてんの事さ。」
まくつて、やい不見転みずてん芸者! なんて怒鳴るんですもの。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「困るなあ、どうも、この若松の者は、柄が悪くて、助平で、油断も隙もならんよ。玉井君、光丸は僕のれっきとした女房ですよ。不見転みずてん芸者と、他人の細君との見さかいくらいはつけて貰いたいもんだねえ。君は、一体、光丸とどんな関係なんだ?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)