一肌ひとはだ)” の例文
同類でないならば、おめえも、一肌ひとはだぬいで、手伝ってくれるはずだ。一ツ橋家の藩邸へ、十手を持って踏み込むわけにはゆかねえ。奴を
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天道樣が感應かんおうましまして忠兵衞にはせし者ならん如何にも此長助が一肌ひとはだぬいでお世話致さんさりながら一たん中山樣にて落着らくちやくの付し事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「外は風雨しけだというのに、内では祝言のしたくだ——しかしこのお差紙さしがみの様子では、おれも一肌ひとはだ脱がずばなるまいよ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで、また一方、お松は若衆わかいしゅたちに向って後援を依頼したものですから、若衆もいい気持になって、よしよし、一肌ひとはだぬごうという気になりました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたしが一肌ひとはだ脱ぎませうつていふわけでね、即座に小切手を書いて下さつたもんだ。無論、証書へ判だけは捺した。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「よくって、ベロヴゾーロフさん、一肌ひとはだいでちょうだいね。わたし馬は、明日るんですから」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
閑子のつもりでは、結婚のとき近所まわりの案内役をつとめてくれた竹子に一肌ひとはだぬいでもらいたかったのかもしれぬが、そのときの結果は閑子の決意をくだくことになった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
摺沢 (何事もなかつたやうに)いやなに、わたしも、押川さんのさういふところを見込んで、一肌ひとはだ脱いだ訳なんですから、心のなかでは、何とも思つてやしません。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「あなたのようにあり余るほど築き上げたかたが、こんな時に一肌ひとはだ脱がないのはうそです。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、道庵の催しを聞いてみると、宿の主人としても一肌ひとはだぬがないわけにはゆきません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「折り入って、そちに、相談があってやって来た。一肌ひとはだぬいでくれぬか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここを切開いて行かないことには多年の望を遂げることもかなわぬ……人は誰しも窮する時がある、それを思って一肌ひとはだ脱いでくれ、親類に迷惑を掛けるというは元より素志にそむくが
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一肌ひとはだぬがなければなるまいと柄にもない乗り気になっているんです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつ、太夫のひろめをする、その時は一肌ひとはだぬいでやるぞ」