一撮ひとつまみ)” の例文
そこで僕に別に一碗の熱湯を持ち来れと命じ、自ら起つて調合所に往き、大黄だいわう一撮ひとつまみを取り来つて熱湯中に投じ、頓服して臥した。既にして上圊しやうせい両度であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
イエス忽ちユダに一撮ひとつまみの食物を与へ、静かに彼に云ひけるは、「なんぢが為さんとする事は速かに為せ。」ユダ一撮の食物を受け、直ちに出でたり。時既になりき。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼も郷里の九州には父から譲られた少しばかりの田畑たはたを有って居たが、其土は銭に化けて追々おいおい消えてしまい、日露戦争終る頃は、最早一撮ひとつまみの土も彼の手には残って居なかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二階の論判ろッぱん一時ひとときに余りけるほどに、雷様の時の用心の線香をふんとさせ、居間からあらわれたのはお蔦で、もぐさはないが、禁厭まじないは心ゆかし、片手に煙草を一撮ひとつまみ。抜足で玄関へ出て、礼之進の靴の中へ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その婆あさんが、その澁紙のやうな手の平に、一撮ひとつまみ程の赤小豆の屑を入れて、五味をり出してゐる。博士はそれに氣が留まつて、一寸立ち留まつて見た。そしてかう思つた。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)