一呑ひとのみ)” の例文
ただ一呑ひとのみ屏風倒びょうぶだおしくずれんずるすさまじさに、剛気ごうき船子ふなこ啊呀あなやと驚き、かいなの力を失うひまに、へさきはくるりと波にひかれて、船はあやうかたぶきぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かの蕨村子の如き上下三千載の哲學史を一呑ひとのみにしたるやうなる多聞博通の士が斯くまでにハルトマンの無意識哲學を僻典視する所以をおもひて、つひに我惑を解くこと能はず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
鼬はいきなりかけつけてきて、鼠のくせにまたおれの巣をあらすのかと、どなりたてながら、蝙蝠を一呑ひとのみにしようとしました。蝙蝠はびつくりして、鼬をなだめながら、いひました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
いきなりかけつけてきて、鳥のくせになまいきだといつて、蝙蝠を一呑ひとのみにしようとしました。蝙蝠はびつくりして、べんかいしました。——わたしを鳥だなんて、まちがへてはいけません。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)