-
トップ
>
-
やれびさし
……
軒も
門も
傾いて、
破廂を
漏る
月影に
掛棄てた、
杉の
葉が、
現に
梟の
巣のやうに、がさ/\と
釣下つて、
其の
古びた
状は、
大津繪の
奴が
置忘れた
大鳥毛のやうにも
見える。
鼻のさきに
漂う煙が、その
頸窪のあたりに、古寺の
破廂を、なめくじのように
這った。
破廂より
照射入る月は、崩れし壁の骨を照して、家内
寂寞として墓に似たり。ややありて泰助は、表門の
方に出で、玄関に立向い、戸を
推して試むれば、固く内より
鎖して
開かず。