-
トップ
>
-
かくて
却説傳吉は
酒宴の席へ出で扨々
折角御招ぎ申しても何も進ずる物もなし
併し今日の
座興に
歸國なす道中の物語を
却説八右衞門は彦三郎へ申
含置たる通り名主の玄關にて
強情申
張故是非無召連訴へと相成則ち
口上書を差出せり
却説甲州屋吉兵衞は廿
有餘年の其昔し東海道の藤川宿へ
貧苦に
迫つて
棄たる我が子に場所も
有うに
白洲にて
再會せんとは思ひきや夢かとばかりに思はれて後先も無く
突然と
助命は願へど
流石にも久八
事は私しの
悴なりとも云出し兼
然とても又
棄置時は五逆の大罪遁るゝ道なし此身を
有恁予は憐むべき美少年の為に、
咒詛の釘を
抜棄てなんと試みしに、
執念き鉄槌の一打は到底指の力の及ぶ所にあらざりき。