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おひずり
引たりける此時は天一坊は既に玄關迄來りしが向の
壁に懸し
笈摺を見て
偵大膽不敵の天一坊なれど
慄然と身の毛よだち思はず二足三足跡へ
退くを見て取越前守大音に寶澤待と聲を
薄い
髪の、かじかんだお
盥結びで、
襟へ
手拭を
巻いて
居る、……
汚い
笈摺ばかりを
背にして、
白木綿の
脚絆、
褄端折して、
草鞋穿なのが、ずつと
身を
退いて、トあとびしやりをした
駅員のあとへ
「アイ、
笈摺もな、
兩親のある子やゆゑ兩方は
茜染……」