まと)” の例文
「僕もこれは読んでいないが、いったい、あアいう連中の書いてる物はいずれも小器用にはまとまってるが、少しも背景バックや深みがない」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「このまえの約束した物ですよ」と得石はじれったそうにもつれた紐を解こうとした、「——貸金の証文をまとめて持って来たんです」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
初めはわたくしが勝ちましたが、段々仕舞に負けまして、大伴蟠龍軒から金を借りましたので、すると百両とまとまった金だから証文にしろ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それを一とまとめにして、當寺の檀家だんかで、黒門町の兩替屋樽屋金兵衞に引渡し、小判に替へて本堂再建の入費に當てることになりました。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「別に心当りと云う程でもありませんけれど、最近社長の所へは、沢山たくさん脅迫状が来ているのです。御入用ごにゅうようでしたらまとめて差出しますが」
何事をするにも何事を考えるにも、自分が人からいとわれる不具の身であるという観念は、常に息苦しいまでに私の心に付きまとうた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
『御内方には、頼母子講のようなものに入っておいでないのか。月々、懸金かけきんをして、何ぞの場合にまとめて取る無尽むじんと申すあれなどには』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身にまと何樣どのやうなる出世もなるはずを娘に別れ孫を失ひ寄邊よるべなぎさ捨小舟すてこぶねのかゝる島さへなきぞとわつばかりに泣沈なきしづめり寶澤は默然もくねんと此長物語を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「三つの心は百までも」「老馬みちを忘れず」という。青年時代に植えた種子たねは、よかれ、しかれ、いつまでも身辺にまといつく。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
けば/\しい馬鹿げたころもを身にまとひ、鈴附きのつの形帽子を戴いて、台石のもとにうづくまり、涙に満ちたまなこで永遠の女神を見上げてゐる。
寝間着の上に大島の羽織をまとって、メリヤスのパッチの端を無恰好ぶかっこうに素足のかかとまで引っ張っている高夏は、庭先へ椅子を持ち出していた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
途中において沢山の悪魔や疫癘えきれいが付きまとうて花嫁に従い、そうして花聟の家に入って来て嫁と聟とに害を加えるようになるから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だが暗い夜の肌衣をまとっている柔らかい肉体が、宙を舞うというばかりで好きなのではない。ただ何となく好ましいのである。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
まなこの光にごひとみ動くこと遅くいずこともなくみつむるまなざし鈍し。まといしはあわせ一枚、裾は短かく襤褸ぼろ下がり濡れしままわずかにすねを隠せり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
自分の胸のあたりへ蛇のようにまといかかっている女の長い黒髪を無雑作むぞうさに押しのけて、頼長はくつを早めてあなたのちんの方へ行ってしまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
金はあっても売りがないので、みすみす食物を摂ることが出来ず、錦の衣裳をまとったまま飢え死にをした能役者もあった。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「然う御相談がまとまっていますのなら御勝手ですわ。盗み泥棒をなさるのとは違いますから、私も強いて反対は致しません」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
きびすかへしてツト馳出はせいづればおたかはしつて無言むごん引止ひきとむるおびはし振拂ふりはらへばとりすがりはなせばまとひつきよしさまおはらだちは御尤ごもつともなれども暫時しばし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仔細しさいかたらずたゞ思入おもひいつてふたが、じつ以前いぜんから様子やうすでもれる、金釵玉簪きんさぎよくさんをかざし、蝶衣てふいまとふて、珠履しゆり穿うがたば
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とりあかみどりはねをして、のどのまわりには、黄金きんまとい、二つのほしのようにきらきらひからせておりました。それはほんとうに美事みごとなものでした。
藤さんはにわかに荷物をまとめて帰って行ったというのである。その伯父さんというのはだいぶ年のった、鼻の先に痘痕あばたがちょぼちょぼある人だという。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
其處で周章うろたへて歌をまとめて東雲堂へ持ち込み、若干の旅費を作つて歸國したのであつた。で、この本の校正をば遠く日向の尾鈴山の麓でやつたのであつた。
樹木とその葉:07 野蒜の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
斗滿川とまむがはいへ半町餘はんちやうよところり。朝夕あさゆふ灌水くわんすゐおもむくに、如何いかなる嚴寒げんかん大雪おほゆきこういへども、浴衣ゆかたまとひ、草履ざうり穿うがつのみにて、何等なんら防寒具ばうかんぐもちゐず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
もしまことの叔父が、大雪渓の下に眠っているのなら——あゝ、野村君、僕はあの呪われた速記を読んだ時以来、夜となく昼となく、この妄念につきまとわれたのだ。
テラデルフユウゴの住民は寒地に在りても裸体らたいにて生活す。彼のエスキモを見よ屋外にづるには温き衣服いふくまとへども屋内に入れば男女のべつ無く屡ば裸体となるにあらずや。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
京橋の旅館に着いて、荷物をまとめ、会計を済ました。この家は三年前、芳子が始めて父に伴れられて出京した時泊った旅館で、時雄は此処に二人を訪問したことがあった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さればと謂つて、審判官アンパイアーとなツて、一家の爲に何れとも話をまとめるといふことも無く、のんきに高處たかみの見物と出掛でかけた。勿論もちろん母夫人は、華族でもなければ、藝術家でも無い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もとより世に時めいているものでなく、貧しげな暮しをしておるか、自ら世を韜晦とうかいしておるか、いずれかの人として淋しい心持がつきまとう、其処に秋風らしい心持があるのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
僕の友人は、労働歌を歌っていて、ただ、それだけで一年間尾行につきまとわれた。
鍬と鎌の五月 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
町の方へ嫁に行くことに話がまとまりかけていたお美代を、無理矢理に新田へ、土地の素封家そほうかだと言うことだけで、いろいろと口説き落とした自分であったことを、ぼんやり思い出した。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そしてその時の主な云い分は、両方の家族は一緒にまとまって強くなり、そして両方の子供は、数が少ないので戦いの際に敵の餌食となるというようなことはなくなる、というのである2
たゞあきらめの分子が、他の情實にまとはられた人よりも幾らか多かつたに過ぎないのであらう。私の鋏が切れ味よかつたわけではなく、私はたゞ切り易い布を持つてゐたに過ぎないのだ。
輝ける朝 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
西洋の浴槽だから、小判形に細長く、一人が寝てはいるようにできている。ブラドンは、看護婦あがりの若いアリスが一糸もまとわない肉体をその湯槽に長々と仰臥ぎょうがさせるのを眺めていた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
されば先生は常にはかまをも着せず、一書生いちしょせい風体ふうたいなるにかかわらず、予が家の婢僕等ひぼくら尊敬そんけいして、呼ぶに先生を以てし、門番もんばん、先生を見ればにわかに衣をまといてその裸体らたいおおいてれいせり。
私は毎夜、眠られなかった。安い酒を飲んだ。たんが、やたらに出た。病気かも知れぬと思うのだが、私は、それどころでは無かった。早く、あの、紙袋の中の作品集をまとめあげたかった。
このすなたゞ細微さいびなるばかりではなく、一種いつしゆ不可思議ふかしぎ粘着力ねんちやくりよくいうしてるので、此處こゝ陷落かんらくしたものあがらうとしてはすべち、すべちてはすなまとはれ、其内そのうち手足てあし自由じゆううしなつて
何を云ってやがるんだい! 籤引だって! 手前の様な青二才に籤が当ってみろ、かえって、親分の足手まといじゃねえか。籤引なんか、俺あ真っ平だ。こんな時に一番物を云うのは、腕っ節だ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
生温なまぬるい訓誡や、説法ではやむべくもあらざれば、すべからくこれに禁止税を掛くるべく、うるさく附けまとわれて程の知れぬ口留め料を警官や新聞に取らるるより、一と思いに取ってくださる
我事わがことすでにおわれりとし主家の結末と共に進退しんたいを決し、たとい身に墨染すみぞめころもまとわざるも心は全く浮世うきよ栄辱えいじょくほかにして片山里かたやまざと引籠ひきこもり静に余生よせいを送るの決断けつだんに出でたらば、世間においても真実
馬来マレイ人やヒンヅ人が黒光くろびかりのするからだ黄巾赤帽くわうきんせきばういたゞき、赤味の勝つた腰巻サロンまとつて居る風采ふうさいは、極𤍠ごくねつの気候と、朱の色をした土と、常に新緑と嫩紅どんこうとを絶たない𤍠帯植物とに調和して中中なかなか悪くない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
軽部の死についてもついぞ一言もまとまった慰めをしなかった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
チュウデーデースにアテーネー附きまとへるを眺め見て
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
さうして其邊に取り散らかつた原稿をまとめてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
同じ血脈ちすぢのかなしみのつきまとふにか、呪ふにか
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこには、一糸もまとわぬ裸の世界があった。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
まよはしまと眞白手ましらて
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
むねまとへる光輝かゞやき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
秀之進は自分で云うといったが、かれにはどうしても旨くまとまるとは思えなかったから、……しかし案外にも藤尾は拒絶しなかった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いや、御苦勞、御苦勞。不精したやうで惡いが、俺は早く歸つて、今日一日の見聞したことをまとめたかつたんだ。で、原庭はどうだ」
到頭そうした生活の数年後には、ビルバオ市へ赴いてその女の邸の付近をウロ付き廻ったり、何か執拗く付きまとったりしたのでしょう。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)