まば)” の例文
自分にすぎた筒井であっただけまばゆいばかりの妻を得ていることが、どういうしあわせにも増して底の深い倖せであったことであろう。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ゆうべの夢見ゆめみわすれられぬであろう。葉隠はがくれにちょいとのぞいた青蛙あおがえるは、いまにもちかかった三角頭かくとうに、陽射ひざしをまばゆくけていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
虹のようなあけらんを架けた中庭の反橋そりばしを越えて来たのである。扈従こじゅうの家臣や小姓たちさえ、まばゆいばかりな衣裳や腰の物を着けていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヘエ。このような大雪になりますと、眼がまばゆうて眩ゆうてシクシク痛みます。涙がポロポロ出て物が見えんようになります」
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしまばゆかったろう、下掻したがいを引いてをずらした、かべ中央なかばに柱がもと、肩にびた日をけて、朝顔はらりと咲きかわりぬ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多賀屋の二階二た間を打ち拔き、善美を盡した調度の中に、まばゆいばかりの銀燭に照らされて、凄まじくも早桶はやをけが一つ置いてあつたのです。
草木の緑や、男女の衣服の赤や、紫や、黄のかすんだような色が、丁度窓から差し込む夕日を受けてまばゆくない、心持のい調子に見えていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
眼の下にははるかの海がいわしの腹のように輝いた。そこへ名残なごりの太陽が一面に射して、まばゆさが赤く頬を染めるごとくに感じた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
燈光とうくわうさんとしてまばゆき所、地中海の汐風に吹かれ来しこの友の美髯びせん、如何に栄々はえ/″\しくも嬉しげに輝やきしか、我はになつかしき詩人なりと思ひぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ふことの夜をし隔てぬ中ならばひるまも何かまばゆからまし』というのです。歌などは早くできる女なんでございます
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
顏立かほだちもお品よく、眼はどちらかといへばロチスターさんに似て——大きくて黒く、それに身につけてゐらつしやる寶石のやうにまばゆいやうですよ。
流れ入る客はしばらくもとゞまらず。夫妻連れの洋人、赤套レツドコートの英国士官、丸髷まるまげ束髪そくはつ御同伴の燕尾服、勲章まばゆき陸海軍武官、商人顔あり、議員づらあり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
東側の、太陽の前方にあるすべてのものはまばゆかつた。その光を浴びてゐる他の側は、靄のためにまるで銀鼠色の幕をかけられてゐるかのやうであつた。
いたずらに色彩が分裂しているのみであって、しかもまばゆいばかりの、眩耀ハレーションで覆われているのですから、どこにその像の源があるのか判断がつかなくなって
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
やみにもよろこびあり、ひかりにもかなしみあり麥藁帽むぎわらばうひさしかたむけて、彼方かなたをか此方こなたはやしのぞめば、まじ/\とかゞやいてまばゆきばかりの景色けしき自分じぶんおもはずいた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
玩具箱! 彼は実際神のように海と云う世界を玩具にした。かに寄生貝やどかりまばゆい干潟ひがた右往左往うおうざおうに歩いている。浪は今彼の前へ一ふさの海草を運んで来た。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
右の榊の前には、各大臣、議長、将官などがまばゆく整列し、左の榊の前には例の大熊老人の親戚の一団が、今日の光栄に得意然たる面持で、目白押しに並んでいた。
仲々死なぬ彼奴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
途中とちゅう、サンキスト・オレンジのたわわに実る陽光まばゆい南カルホルニアの平野を疾駆しっく、処々に働いている日本人農夫の襤褸ぼろながらも、平和に、尊い姿を拝見はいけんしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
陽子の部屋に比べると、海岸に近いだけふき子の家は明るく、まばゆい位日光が溢れた。ふき子は、縁側に椅子を持ち出し、背中を日に照らされながらリボン刺繍を始めた。
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さうしてはかへるかぬ日中につちうにのみ、これあふげばまばゆさにへぬやうにはるかきらめくひかりなかぼつしてそのちひさなのど拗切ちぎれるまでははげしくらさうとするのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
古い雪の上に新雪が加わると、その翌る朝などは、新雪が一段と光輝を放ってまばゆく見える。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
とおった秋の夜の空気の耳にある物が、どんな微細なものまでも皆キラキラとまばゆい燐光りんこうを発しているので、その極端な明るさが見張りの者の展望を妨げているのである。
こもかぶりや、いろいろの美しいレッテルをった瓶などを、沢山ならべてあって、次郎の眼にはまばゆいように感じられたが、奥は、以前の家とは比べものにならない、狭い
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そうしてまた場外の外光が遠くの遠くに小さく、正方形に白くまばゆく切り開かれているのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
この弦月丸げんげつまるにもしば/\そのもようしがあつて私等わたくしら折々をり/\臨席りんせきしたが、あること電燈でんとうひかりまばゆき舞踏室ぶたうしつでは今夜こんやめづらしく音樂會おんがくくわいもようさるゝよしで、幾百人いくひやくにん歐米人をうべいじんおいわかきも其處そこあつまつて
が、それまでまばゆい日の光に慣れていた眼は、そこに瞳を痛くする暗闇を見出だすばかりだった。その暗闇のある一点に、見つづけていた蝿が小さく金剛石のように光っていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きらきらする指揮刀がまばゆく輝いて見え、むんむんする隊列の汗と靴革の匂ひ、町中を行進するときや、町外れの木蔭で見物人にとりまかれて兵卒に演習の想定を説明するときや
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
それは晴れた好い日で、輝かしい日の光線がまばゆいほどにあたりを照つて、そこに心の秘密の影がこつそりかくれてゐやうなどとは夢にも思へないほどそれほどあたりが明るかつた。
父親 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
陽光に反射して見る眼まばゆき舗石しきいしが、円柱の並んだ大建築を取りめぐって放射線状に張り出した広場の中央には、噴泉らしいものもある……そして、今、我々の佇んでいるこの絶巓から
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
匁蝋燭めろうそくの燭台が輝き、蒔絵まきえ膳部ぜんぶが並び、役者や芸妓がとりもちに坐った、まばゆいほどの光と、華やかな色彩と、唄や鳴り物や嬌声きょうせいが……この座敷いっぱいにくりひろげられたものだ。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてその明るいまばゆい灯の光は、私をしてその疲れた眼を開くに堪へざらしむるほど刺戟が強かつた。眼瞼まぶたがちく/\と刺される様に痛く、身体がふら/\して、人にぶつかつてばかり居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ニュウグランド・ホテルの前を通って、陽のまばゆい草原の道を真直ぐに進みながら、小さい兄妹はえんじ色にうれた野苺のいちごを見つけて、わざと草深い中を歩きながら両手にあまるほど苺を摘んだ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
汝等なんぢらこそは知れ、まばゆくも入組みたる谷窪たにくぼの奧に
宮はおのれの顔のしきりに眺めらるるをまばゆがりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あけみどりまじらひ匂ふまばゆさ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
何んというまばゆさ……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
なくときなくまばゆくも
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
まばゆくも変りゆく
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
つつましく燭を羞恥はにかんでいる姫のひとみさえ、深い睫毛まつげの蔭からまばゆいものでも見るように範宴の横顔を見たようであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
エレーンは衣のえり右手めてにつるして、しばらくはまばゆきものとながめたるが、やがて左に握る短刀をさやながら二、三度振る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、まばゆそうに入日にかざす、手をるる、くれないの露はあらなくに、睫毛まつげふさって、霧にしめやかな松の葉よりこまかに細い。
そう判ると、かすかな嫉妬を覚えたけれども、これまでの惨苦も懊悩おうのうも一時に消え失せて、残った白紙のまばゆさには、何もかも忘れ果ててしまうのだった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
やみにもよろこびあり、光にもかなしみあり、麦藁帽むぎわらぼうひさしを傾けて、彼方かなたの丘、此方こなたの林を望めば、まじまじと照る日に輝いてまばゆきばかりの景色。自分は思わず泣いた。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と云い聞かせると忽ち今までの赤いまばゆい光りが消え失せて、四方が真暗になった。その代り東の方の林の間には、黄色い大きなお月様が、まんまるくさし昇っていた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
春の日光が屋外に出ると暖くまばゆいが、障子をしめた斜南向の室内はまだ薄すり冷たく暗いというような日、はる子はぽっつり机の前に坐っていた。からりと格子が開いた。
沈丁花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
最後に、ステップ、ウインク、投げキッスと、三拍子さんびょうし、続けてやられたとき、そのれたような漆黒しっこくの瞳が、瞬間しゅんかんあやしくうるんで光るばかりにまばゆく、ぼくは前後不覚のい心地でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
まばゆいやうな腕も纖細な手も見えるやうにし、ダイアモンドの指環ゆびわも金の腕環も忘れぬやうに、ひら/\したレイスやキラ/\光る繻子しゆす、優雅なスカーフや金色の薔薇を、その衣裳も丁寧に寫せ。
彼等は互にきそい合って、同じ河の流れにしても、幅の広い所を飛び越えようとした。時によると不運な若者は、焼太刀やきだちのように日を照り返した河の中へころげ落ちて、まばゆい水煙みずけむりを揚げる事もあった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半ば融けて、大気を含んだ、透明の泡が、岩の影に紫色をかざしているのに、まばゆくなるばかりにおどろいた、南方八月の雪! 白峰をして白からしめた雪! 我ら一行の手は、初めてこの秘められたる
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
しかるに彼方かなたあやしふねあへこの信號しんがうには應答こたへんともせず、たちまその甲板かんぱんからは、一導いちだう探海電燈サーチライトひかり閃々せん/\天空てんくうてらし、つゞいてサツとばかり、そのまばゆきひかり甲板かんぱんげるとともに、滊笛きてき一二せい