片時かたとき)” の例文
その後間もなく西が外務の留学生となって渡支してからも山海数千里をへだてて二人は片時かたときも往復の書信を絶やさなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そう思うと、今まではただ、さびしいだけだったのが、急に、怖いのも手伝って、何だか片時かたときもこうしては、いられないような気になりました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
事実滝人には、一つの大きな疑惑があって、それには、彼女が一生をしてまでもと思い、片時かたときも忘れ去ることのない、ひたむきな偏執が注がれていた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
國司に呼ばれてその傍にゐたる魂は、この爭ひのありし間、片時かたときも瞳を我より離すことなかりき 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
近所合壁きんじょがっぺき、親類中の評判で、平吉がとこへ行ったら、大黒柱より江戸絵を見い、という騒ぎで、来るほどに、たかるほどに、とん片時かたときも落着いていたためしはがあせん。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくし貴方あなた心底しんそこ思って居りまして済みません、あなたのほうでは御迷惑でも、それは兼がく存じて居ります、此のあいだお別れ申した日から片時かたときも貴方の事は忘れません
そして、自分じぶんが、片時かたとき故郷こきょうのことをわすれぬように、その少年しょうねんも、自分じぶんむらわすれないであろうとおもうと、そのかおない少年しょうねんが、なんとなく、したわしくなりました。
隣村の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
出来上がりが近づくと葉子は片時かたときも編み針を休めてはいられなかった。ある時聖書の講義の講座でそっと机の下で仕事を続けていると、運悪くも教師に見つけられた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ところがながあいだ為朝ためともになついて、影身かげみにそうように片時かたときもそばをはなれない二十八武士ぶしが、どうしてもおともについて行きたいといってききませんので、為朝ためともこまって
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
こうして、ガンたちは、またも暴風ぼうふうの中にはいりましたので、ますますおきへ吹き流されました。暴風は、一時も休まず、ガンたちも、片時かたときもじっとしていることができません。
なんぢおきなよ、そちはすこしばかりのいことをしたので、それをたすけるために片時かたときあひだひめくだして、たくさんの黄金おうごんまうけさせるようにしてやつたが、いまひめつみえたのでむかへにた。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
恋の悩みは片時かたときもかれをして心を静かならしめることができなかった。郁治はある時は希望に輝き、ある時は絶望にもだえ、ある時は自己の心の影を追って、こうも思いああも思った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
されど我を煩悩ぼんのう闇路やみじよりすくひいで玉ひし君、心の中には片時かたときも忘れはべらず。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
地中ちちゆうふかければかならず温気あたゝかなるきあり、あたゝかなるをはき、天にむかひ上騰のぼる事人の気息いきのごとく、昼夜ちうや片時かたときたゆる事なし。天も又気をはきて地にくだす、これ天地の呼吸こきふなり。人のでるいきひくいきとのごとし。
「そういう心の隙間すきまが、もうわたしはうらみです、申し残したいことがあれば、どうなるのですか、わたしはもう、この世に於ての未練は少しもありませぬ、片時かたときも早く死出の旅路に出たい」
わしは片時かたときも早くこの荒れた島から離れたい。何かみやこにことづてはありませんか。わしがあなたがたへのただ一つの親切にそれを取りついであげましょう。あゝわしは忘れるところだった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
また何かしらしゃべらないでは片時かたときもいられないといった気作きさくな風があった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頼んで江戸町の玉屋山三郎方へうりわけまことに申わけ御座らぬと申せば長兵衞よし/\お幸は不便ふびんなれ共今更いまさら詮方せんかたなし其中には受出す樣に仕やう先夫はあとの事差當さしあたつて文右衞門樣の一けん片時かたときすてては置れず早々さう/\願書を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おしおはもう片時かたときも小平太のそばを離れない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
片時かたとき黄金こがねの雨が降りかかる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
片時かたときなりと 忘れねば
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
はらわたえざらんぎりなきこゝろのみだれ忍艸しのぶぐさ小紋こもんのなへたるきぬきてうすくれなゐのしごきおび前に結びたる姿(すが)たいま幾日いくひらるべきものぞ年頃としごろ日頃ひごろ片時かたときはなるゝひまなくむつひしうちになどそここゝろれざりけんちいさきむね今日けふまでの物思ものおもひはそも幾何いくばく昨日きのふ夕暮ゆふぐれふくなみだながらかたるを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし今度は片時かたときでも留守居役の苦しみを逃れたさに、壻をと思ひはじめたのだつた。それだけに以前に比べれば、今度の壻を取りたさはどの位痛切だか知れなかつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いまでもんだ戦友せんゆうのことや、負傷ふしょうしたともだちのことを片時かたときもわすれることがありません。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鸚鵡は、もっとも、お嬢さんが片時かたときそばを離さないから、席へ出ては居なかつたの。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さア大事は小事より起るのたとえで、片時かたときも置くことは出来ん、出て
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わしは片時かたときも早くこの不愉快な役目を終わりたい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
片時かたとき涼しければ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なんとも思召おぼしめすまじけれどものごゝろ其頃そのころよりさま/″\のこと苦勞くらうにしてだしなみものまなれかれかおりたやかれまじとこゝろのたけは君樣故きみさまゆゑ使つかはれて片時かたときやすおもひもせずお友達ともだちあそびも芝居しばゐきもおきらひとれば大方おほかたことわりいふて僻物ひがものわらはれしはれのため
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なんで、おまえのことを片時かたときなりともわすれるものではない。」とこたえました。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
鸚鵡あうむは、もつとも、おぢやうさんが片時かたときそばはなさないから、せきてはなかつたの。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あさおもへばあさひるよる夜中よなか明方あけがた、もうね、一それえましてから、わたしおぼえてますだけは、片時かたときも、うやつて、わたしかほ凝視みつめたなり、上下うへしたに、ひざだけらさうともしないんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)