息子むすこ)” の例文
大キュロスとカッサンダネとの息子むすこ波斯ぺるしゃ王カンビュセスが埃及えじぷと侵入しんにゅうした時のこと、その麾下きかの部将にパリスカスなる者があった。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
三十七ねんぐわつ十四幻翁げんおう望生ぼうせい二人ふたりとも馬籠まごめき、茶店ちやみせ荷物にもつ着物きものあづけてき、息子むすこ人夫にんぷたのんで、遺跡ゐせきむかつた。
けれど、都の人びとは、巨男おおおとこがおそろしい魔女まじょ息子むすこだということを知っていましたので、とおまわしに巨男おおおとこころそうと考えました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
戦争せんそうが、はじまって、純吉じゅんきち出征しゅっせい召集しょうしゅうされたとき、父親ちちおやは、ただ息子むすこが、むらからともだちにけをらぬことをねんじたのでした。
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
嫂は毎日絶え間なく、くした息子むすこのことを嘆いた。びしょびしょの狭い台所で、何かしながら呟いていることはそのことであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
小さなドンビーは、自分のかわいい息子むすこのように思われた。死にかかってる世間知らずの細君ドラーは、自分自身のように思われた。
「実は、市内の人で、自分の息子むすこが参加していやしないかと、それを心配して、走りまわっている人が、もう何名もあるそうです。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
息子むすこや娘は母の態度を飽き足りない歯がゆいもののように思って、尼になっていながらこの世への未練をお見せするようなものである
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
隨分ずゐぶん厭味いやみ出來できあがつて、いゝ骨頂こつちやうやつではないか、れは親方おやかた息子むすこだけれど彼奴あいつばかりはうしても主人しゆじんとはおもはれない
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母は笑ひながらも、馬越家の中心であるこの息子むすこが、何一つ道樂らしいことはしないで、無事に世を送つてゐることを喜んでゐた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
この男先生は、百姓ひゃくしょう息子むすこが、十年がかりで検定試験けんていしけんをうけ、やっと四、五年前に一人前の先生になったという、努力型の人間だった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「エアさん、何んてあきれたことをするのでせう、お坊つちやまをつなんて! あなたの恩人の息子むすこさまを、あなたの若主人を!」
僕の友だちは僕のやうに年とつた小役人こやくにん息子むすこばかりではない。が、誰も「いちやん」の言葉には驚嘆せずにはゐられなかつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
第一種の話というのは、ある男が六十になった親をもっことかあじかとかに入れて、小さい息子むすこに片棒をかつがせて、山の奥へ棄てに行く。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
東京は火事があぶねえから、好い着物は預けとけや、と云って、東京の息子むすこの家の目ぼしい着物を悉皆すっかり預って丸焼にした家もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから早速さっそくひとたのんで、だんだん先方せんぽう身元みもとしらべてると、生憎あいにくおとこほう一人ひとり息子むすこで、とても養子ようしにはかれない身分みぶんなのでした。
しかし、私はどうしよう! 私には私の田舎いなかがない。私の生れた家は都会のまん中にあったから。おまけに私は一人息子むすこで、弱虫だった。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
其處そこその翌日あくるひ愈〻いよ/\怠惰屋なまけや弟子入でしいりと、親父おやぢ息子むすこ衣裝みなりこしらへあたま奇麗きれいかつてやつて、ラクダルの莊園しやうゑんへとかけてつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
肝腎かんじんの「人格を完備した男女」を作る事を忘れ、人格を尊重し合うべき事を息子むすこのため娘のために教えて置かぬ罪に帰せねばなりません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
しかしこのマルクス・ボオイもブルジョアの一人息子むすこだけに、葉子が想像したほど、内容にぶつかって行くのは容易でなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この子は、ひとり息子むすこでした。おとうさんと、おかあさんにとっては、大きなよろこびであり、また、これから先の希望でもあったのです。
もと彼には、不運だつた父親を持つた息子むすこに特有な、自分の未知の生涯に対する負けん気が潜んでゐた。それがいまきつけられたのだつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「あなたは金魚屋さんの息子むすこさんの癖に、ほんとに金魚の値打ちをご承知ないのよ。金魚のために人間が生き死にした例がいくつもあるのよ」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こういうときは、おやじが受け取らないで、この場合、従者である息子むすこの方が受け取るものであることも、秋彦はこころえているらしかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ずいぶんいかがわしい家庭の息子むすこつくえをならべるのですから、あるいはきみが君公ご馬前の臣節をつくすような機会が来ないともかぎりません
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
会社員とはいえ、前途を約束された重役の息子むすこさんであった。お小遣いにも事は欠かなかった。その上、彼には気まぐれでない情熱があった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母親は息子むすこのこのごろどうかしているのをそれとなく感じて時々心を読もうとするような眼色めつきをして、ジッと清三の顔を見つめることがある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
同席を許してもらえるのも、僕があの人の息子むすこだからというだけのことに過ぎん。僕は一体誰だ? どこの何者だ? 大学を三年で飛び出した。
さっそく、蹴っ飛ばされるか、ひっぱたかれるかして、わしがどこまでもお祖父さんの息子むすこだってことを知らされるだけだ
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
進ぜん外々ほか/\の儀と事變り金子の事故驚怖おどろいたりあたらきもつぶす所と空嘯そらうそぶひてたばこをくゆらし白々敷しら/″\しくも千太郎を世間知らずの息子むすこと見かすまづ寛々ゆる/\と氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして彼女は、たった一人の息子むすことも離れて、全く孤独の芸術郷に暮している。彼女は信仰のかたい聖徒クリスチャンであるという。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
僕は母に対してけっして柔順な息子むすこではなかった。父の死ぬ前に枕元へ呼びつけられて意見されただけあって、小さいうちからよく母にさからった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それともあの蛸も大将も死んでしまって息子むすこの代となっていはしないか、あるいは息子はあんな馬鹿な真似まねは嫌だといって相続をしなかったろうか
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
永富町ながとみちやうと申候處の銅物屋かなものや大釜おほがまの中にて、七人やけ死申候、(原註、親父おやぢ一人、息子むすこ一人、十五歳に成候見せの者一人、丁穉でつち三人、抱へのとびの者一人)
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
京傳きやうでん志羅川夜船しらかはよふねに、素見山すけんざんの(きふう)ととなへて、息子むすこなんぞうたはつせえ、といぬのくそをまたいでさきをとこがゐる。——(きふう)はだ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
働き盛りの者は、夕張ゆうばり炭田の、地下数千尺で命をかけて、石炭を掘っているのだ! それに、彼らの息子むすこや娘が、そっちへ出かせぎに行っているのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
息子むすこ嗜好すき色々いろ/\もの御馳走ごちさうして「さて、せがれや、おまへ此頃このごろはどうしておいでだえ。矢張やはりわるしわざあらためませんのかえ。」となみだながらにいさめかけると
昔、しなの都に、ムスタフという貧乏びんぼうな仕立屋が住んでいました。このムスタフには、おかみさんと、アラジンと呼ぶたった一人の息子むすことがありました。
いっそ故郷こきょうかえって、そこで百姓ひゃくしょうをしてる息子むすこのところで、のこったしょうがいをおくろう、とそう二人は相談そうだんしました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
大槻芳雄というのは延貴のひと息子むすこで、少からぬ恩給の下る上に遺産もあるので、出来るだけ鷹揚おうようには育てたけれど、天性うまれつき才気の鋭い方で、学校も出来る
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「娘(息女むすめ)よ」というのは、かつて中風の者に向かって言われた「子(息子むすこ)よ」(二の五)という言葉に相対する、きわめて愛情のこもった呼びかけです。
やはり流行にかかわると笑った人もあったが、笑う者に説明する必要はないけれども、僕の真情しんじょうかしていうと、僕の息子むすこにだけは時勢に遅れさせたくない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「智慧のある馬鹿に親爺おやじは困りはて」という川柳がありますが、あの智慧のある馬鹿息子むすこがもっているような、そんな智慧は決して、般若の智慧ではありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
東郷さんもやっぱい肺病で死んで、ええかい、それからあの息子むすこさん——どこかの技師をしとったそうじゃがの——もやっぱい肺病でこのあいだ亡くなッた、な。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
大隅君はひと息子むすこであるから、ずいぶん可愛がられて、十年ほど前にお母さんが死んで、それからは厳父は、何事も大隅君の気のままにさせていた様子で、わば
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
紙屋かみや若旦那わかだんなはなしでも、名主なぬしさんのじゃんこ息子むすこはなしでも、いくらもあろうというもんじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いたって貧乏なケチな店だったが、『金毘羅利生記こんぴらりしょうき』を出版してマンマと失敗した面胞にきびだらけの息子むすこが少しばかり貸本屋かしほんや学問をして都々逸どどいつ川柳せんりゅうの咄ぐらいは出来た。
もし刈り入れの時に、息子むすこたちは兵役に出ており、娘たちは町に奉公に出ており、主人は病気で働けないような場合には、司祭は説教のとき彼のことを皆に伝えます。
その息子むすこというのはカリンポンの方へあきないに行って留守だということでそこでまた幸いに茶を飲む事が出来、なおこれからはどうしても行けないというものですから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
荒木村重の一族たる伊丹兵庫頭のお息子むすこと、黒田家に由縁ゆかりのふかいおぬしの妹とでは、いわば敵味方のあいだ、とても出来ない相談と、心のうちで極めてしまっておるだろうが
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)