たい)” の例文
川上の方を見ると、すすきのいっぱいにはえているがけの下に、白いいわが、まるで運動場うんどうじょうのようにたいらに川に沿って出ているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この二つは、共に比較的あたらしい改良であって、以前はなるべくたいらな、まっすぐな棒を、少しもけずらずに使うのがおこであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三センチほどの厚さでたいらな面を作っており、その上に、つやのある毛よりも細い金属線らしいものがひとつかみほど、のせてあった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
葦原あしはらの中つ国はもはやすっかりたいらいだ。おまえはこれからすぐにくだって、さいしょ申しつけたように、あの国を治めてゆけ」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それからこんどは、島のまんなかにあるたいらな高台たかだいにのぼっていきました。そこには風車ふうしゃのほかは、建物たてものはなんにもありませんでした。
無二無三それを突破しながらすでに登りつめること数十町、ふと仰ぐと、やっと頂上へ出たかたいらかな岩盤とかなり広そうな平地がある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さんざんまわりをこぎまわりますと、やっとたいらなのようなところがあって、しまの中からちいさな川がそこにながしていました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
平生ならば三つや四つ何でもない方だから少々胃吉いきち腸蔵ちょうぞうに気の毒だったけれども苦しいのを我慢して大丼おおどんぶりを一つ半たいらげた。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「さ、剃刀をこう云う風に持ってな、………そうだ、………それから此の鼻を、此処から斯う真ったいらに、きれいに切るんだ」
私は時々生温なまぬるい水に足下あしもとを襲われました。岸へ寄せる波の余りが、のしもちのようにたいらにひろがって、思いのほか遠くまで押し上げて来るのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうしの冷肉を一皿とクワス一本をたいらげてから、広大無辺な我がロシア帝国の地方によっては、よく言い草にされている、いわゆる『ふいごのような大鼾おおいびき
この社会、この国を改良しよう、この世界の敵なる悪魔をたいらげようとの目的をもって戦争をするのであります。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
こうかんずると、地主じぬしは、きゅう悪夢あくむからさめたようながしたのでした。同時どうじに、まえへ、きよらかで、たいらかなひととしてむべきみちひらけるのをかんじました。
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
大名華族からは又うどんかけの振舞いがあり、駄菓子屋と仕立屋と彼はべたが、隣人は固く拒み、結局駄菓子屋と仕立屋がそれを半分ずつ分けてたいらげた。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その藤葛が横に靡けば、前岸かわむこうそばだったたいらかな岩のぱなに往かれそうである。彼はそれに眼をつけた。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御仏みほとけのそのをさなごをいだきたまへるもかくこそとうれしきに、おちゐて、心地ここちすがすがしく胸のうち安くたいらになりぬ。やがてぞじゆもはてたる。らいの音も遠ざかる。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたしたちが一さらをたいらげると、すぐにつぎのさらにかかった。カピもおすそわけにあずかりに来た。
どうぞおたいらに、されば——御監察の要はいささかもこれなく、これ膳部ぜんぶを差し上げ申せ、——ただゆるゆる御滞在あって、お心まかせに御保養ご休息を願いまする
云わばわたくしの心のはかりは数馬に傾いて居るのでございまする。わたくしはこの心のはかりたいらに致したい一心から、自然と多門の皿の上へおもりを加えることになりました。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
土饅頭どまんじゅうぐらいな、なだらかなおか起伏きふくして、そのさきは広いたいらな野となり、みどり毛氈もうせんをひろげたような中に、森や林がくろてんおとしていて、日の光りにかがやいてる一筋ひとすじの大河が
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
どんな珍しいものを見るかと思って……段々海へ乗出してうちには、為朝ためともなんかのように、海賊をたいらげたり、とりこになってるお姫さまを助けるような事があるかも知れませんからね。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
そうって母親ははおや子家鴨こあひるくびで、はねなめらかにたいらにしてやりました。そして
手のひらをたいらにして、片方ずつ抜いてごらん。ゆるくしばったのだから、わけなく抜ける。ほらね。するとベルトが輪になったまま残るね。これを洋服ダンスの中へ持ってはいるのだ。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四方山のような岩にかこまれ、一方だけに口をあけた、二町四方もあるであろうか——そんなにも広いたいらの土地に、ひもうせんとでもいいましょうか、深紅の敷き物が敷いてあったからです。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「みんなたいらに、あぐらをかきたまえ。関君、どうです、服で窮屈きゅうくつにしていてはしかたがない」こう言って笑って、「私が一つビールをおごりましょう。たまには愉快に話すのもようござんすから」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
弘徽殿の女御がこれにたいらかでないことに道理はあった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
闌干方与赤城平 闌干らんかんまさ赤城せきじょうたいらなり
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
牧場ぼくじょうのうしろはゆるいおかになって、その黒いたいらな頂上ちょうじょうは、北の大熊星おおくまぼしの下に、ぼんやりふだんよりもひくく、つらなって見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この大きな島は、みんなの下にたいらによこたわっています。地上は、スコーネと同じように市松いちまつもようで、教会きょうかい農園のうえんがたくさんあります。
尼院の庭はたいらかであったが、東は伊豆山の絶壁であり、南は熱海あたみの漁村まで、山なりに海へ傾斜している半島の突角とっかくだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みことはこんなにして、お道筋みちすじぞくどもをすっかりたいらげて、大和やまとへおかえりになり、天皇にすべてをご奏上そうじょうなさいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
この総数が減らないために、国民が全体でたいらに繁栄してきたように、ちょっとは考えられるけれども、それはどうも事実でなかったようである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
土をならすだけならさほど手間てまるまいが、土の中には大きな石がある。土はたいらにしても石は平らにならぬ。石は切り砕いても、岩は始末がつかぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たいらな劇の舞台の上に、とつぜん大道具が組立てられ、大実験室の舞台装置が出来上ったようなものであった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なるほどこの少年はこれであろう、身体からだは沢庵色にふとっている。やがてわけもなく餌食えじきたいらげて湯ともいわず、ふッふッと大儀たいぎそうに呼吸いきを向うへくわさ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もしそうしなかったら今度こそ彼の兎唇の上にある隆起物が其ッたいらになってしまったかも知れない。
正二しょうじくんは、おじいさんのっていられた眼鏡めがね自分じぶんって、片方かたほうについているねじをました。それは、ちいさな、たいらなあたまみぞのついているものでした。
小さなねじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
檐下でなければ上の方へ高さ四、五尺位に屋根を作ります。その屋根の下へ太い止まり木を横に渡します。止まり木の代りに平たいヌキ板をたいらに渡しても構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
田村麻呂たむらまろ奥州おうしゅうあらえびすをたいらげて、ゆるゆると京都きょうと凱旋がいせんいたしました。天子てんしさまはたいそうおよろこびになって、田村麻呂たむらまろにたくさんの御褒美ごほうびをおさずけになりました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたしが一きれずつ切ってやると、かれらはむさぼるようにして見るまにたいらげてしまった。
にわには木も石もなく、ただたいらな地面じめんが高いかべに取りかれてるきりでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「土人どもをたいらげて宝を奪おうではございませぬか」
「ほんとうにここはたいらですね。」諒安はうしろの方のうつくしい黄金の草の高原を見ながらいました。その人は笑いました。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのたいらなどこを、どう掘っても、湯がいて来るのだから、裸体はだかになって、手で砂をき分けて、くぼんだところへ横になれば、一文も使わないで事は済む。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
断崖の下は、かなりひろくたいらにならされていて、芸術的ではないが、実用向きのはばのひろいセメント道路が出来ていた。仕事の早いのには全くおどろかされる。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばしば六尺よりももっと長い棒のなかほどにゆわえつけて、たいらにして持ち運ぶひつようがあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まったいらな両毛平野も、この辺まで来ると、渡良瀬川をさかいに、たいら将門まさかど以来の坂東ばんどうの人煙が日光山脈にって散在し、赤松の小丘陵の多い起伏の変化もおもしろい。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六人前もたいらげるとおっしゃいますがそんなお方に限って牛肉は背の肉が良いかももの肉が良いか、あばらの肉はどんな味だか、舌や尾はどんなものだか少しも御存知ありません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
門にすぐつづいて、大きなたいらな石をしきつめた、広場ひろばがありました。まわりには、高いりっぱな建物たてものが立ちならんでいて、そのあいだに、せまくて長い通りがありました。
もうみちのないくさの中をやたらにけて行きますと、ひょっこりたいらな土地とちへ出ました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)