まこと)” の例文
国に斯様かような朝臣があるのはまことにめでたい限りであるから、何卒どうか此の上とも体を大切にされて、一日でも多く長生きをして下さるように
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「きのうは終日ひねもす、山をあるき、昨夜は近来になく熟睡した。そのせいか、きょうはまことに気分がよい。風邪かぜも本格的になおったとみえる」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
而して是等はまことに我が普通劇の父たり母たるものにてあれば、吾人は此の精神の甚だ深く我が劇の中心に横はれるを知るに苦まず。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
またかの筍掘たけのこほりが力一杯に筍を引抜くと共に両足を空様そらざまにして仰向あおむきに転倒せる図の如きはまこと溌剌はつらつたる活力発展の状をうかがふに足る。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まことに彼はさも思へらんやうにいさみ、喜び、誇り、楽める色あり。彼のおもては為にふばかり無く輝ける程に、常にもして妖艶あでやかに見えぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
現代の社会研究としては、それも当然のことと言ってよいであろうが、いわゆる史前学の範囲においては、是はまことに忍び難い不利である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼慨然として答えて曰く、「時宗、秀吉はまことに及びやすからず、しかれども義律エリオット伯麦ブレマ馬里遜モリソン陋夷ろういの小才のみ、何ぞともかくするに足らんや」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
た文の妙なるにしかまことに其の文の巧妙なるには因るといえどの圓朝のおじの如きはもと文壇の人にあらねば操觚そうこ
怪談牡丹灯籠:01 序 (新字新仮名) / 坪内逍遥(著)
えゝ、今晩の会はまことに有難くお礼申上げます。この機を利用して諸先生並びに同級生諸君に満腔の敬意を表します。
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まことに結構なお言菜で、お家万歳のきざしと有難く存ずる次第でありますが……」と、一寸眼をあげて殿様の顔を見た。
まことに恐れ入りますが、もう少々お待ちを願います、と言われて見れば詮方無く、不承不承命じられた所に腰を下ろして、暫時合図を待つ事に致しました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
請人うけにんとして主税之助方へ住込しなりまことに此平左衞門は斯の如くの曲者ゆゑ大岡殿再度願山を吟味なさんと工夫有て日野家よりの屆を調べられし上又白洲しらす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とにかく、私を十五の歳まで育てたこの部落は、背後に畑地の多い丘陵があり、前面に水田が開けていて、農民小説にはまことに都合のいい舞台を形成している。
荒雄川のほとり (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
御座おざなりを言うということになる。余りブッキラボーでない、あたさわりが宜いというので御座います。あざやかで穏かでまことに宜い。それは悪い事とは思いません。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
令史れいしすくなからず顛動てんどうして、夜明よあけて道士だうしもといた嗟歎さたんしてふ、まことのなすわざなり。それがしはたこれ奈何いかんせむ。道士だうしいはく、きみひそかにうかゞふことさら一夕ひとばんなれ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
マリウチアとペツポとのわが身を爭ひて、わが全く寄邊よるべなき身の上となりしは、まことに限なき不幸なりき。
六尺男児をしりへに瞠若どうじゃくたらしめた底の女子が追々増加して、三十五六年頃からは、各地女学校の団隊が追々富士登山を試みる様になったのは、まことに喜ばしい現象である。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
これはまことに些細の事であるが、さてさういふ些細の事から時々大きい事が起るものである。
些細なやうで重大な事 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
アジアの大陸、ヨーロッパの大陸、アメリカの大陸等にくらべたらまことびょうたる島であります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まことに知る、鏡を懸け珠を吐きたまひて、百の王相續き、劒ををろちを切りたまひて、萬の神蕃息はんそくせしことをやすかははかりて天の下をことむけ、小濱をばまあげつらひて國土を清めたまひき。
まことに感謝いたします。何もございませんがいさゝか歓迎のしるしまで一献さしあげたいと存じます。ご迷惑は重々でございませうがどうかぢきそこまで御光来を願ひたう存じます。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
一名虹の橋と云つて、まことに結構なもので、其れを正月の十六日と、盆の十六日には小僧の宿下りの日といふので、此の橋を渡らせる、実に立派な御堂であつたが、之も慶応の戦に焼けてしまつた
下谷練塀小路 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
当時、急迫の場合の措置として、まことに、止むを得なんだのである。云々
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
その上にも、まことに無理なお願いであるが、どうか拙者をこのままかくまって、かすみうら常陸岸ひたちぎしか、鹿島かしまの辺まで便乗させてもらえまいか
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗右衛門町のだけはまことに申訳がないが、今後は誓って関係を絶つ、などと云ったが、その時の態度なども、何か非常に上っ調子な
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
浮世絵師の伝記を調べたる人は国芳がきわめ伝法肌でんぽうはだ江戸児えどっこたる事を知れり。この図の如きはまことによくその性情を示したる山水画にあらずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の美き友を択ぶはもとよりこの理に外ならず、まことに彼の択べる友は皆美けれども、ことごとくこれ酒肉の兄弟けいていたるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今日の社会状勢は、はたしてそういう希望を可能にするかどうか。新たに進出せんとする我々の一国民俗学にとっても、是はまことに容易ならぬ試練であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これ彼が三十歳の波風荒き生涯を終り、死にかんとして、江戸におもむく一月前の書簡なりとす。まことに以上の二書簡は、一部の女子教訓にして、家庭の金誡なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これはインデペンデントの方の分子を余計っている人である。だからこういう人というものはまこと厄介やっかいなもので、世の中の人と歩調を共にすることは出来ない。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「国民之友」つて之を新題目として詩人に勧めし事あるを記憶す、まことに格好なる新題目なり、彼の記者の常に斯般しはんの事に烱眼けいがんなるは吾人のひそかに畏敬する所なれど
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
殘らず白状はくじやうすべしとするどく問糺とひたゞされしかば段右衞門は此時このときはじめてハツトいつ歎息たんそくなしまこと天命てんめいは恐ろしきものなり然ば白状つかまつらんと居なほり扨も權現堂ごんげんだうつゝみに於て穀屋平兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しからば(何故なぜそんなに東北地方が好きか?)と申されますと、これは理窟ではなく感情なのでありますからまことに困るのでありますが、私は何故か、優秀な文芸作品から受けると同じような
おん目にかゝらんことは、まことに喜ばしき限なれど、かく強ひて迎へまつらんこと本意ほいなく、二たび三たび止めしに、ベルナルドオの君聽かれねば是非なし。さきにはめでたき歌をたまはりぬ。
劇場正面に飾られた“CREATER DANDY FOLLIES”のネオンサインが浅草の人気を独占して居たかの様であります。房枝の情夫が女形であると言うのはまことに解せない話であります。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
当地ではのさす日がまことに少く、太陽は十一月以来顔を見せてくれませぬが、もう近いうちに早春が訪れて来るでございましょう。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とばかり飲んで騒ぐことを例としていたが、その顔ぶれとすこし違って、今夜の彼のお連れは、まことにおとなしやかな人品だった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浮世絵はその木板摺もくはんずりの紙質と顔料がんりょうとの結果によりて得たる特殊の色調と、その極めて狭少なる規模とによりて、まことに顕著なる特徴を有する美術たり。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わが再遊を試みたるもまことに彼を見んが為なりしなり。我性尤も侠骨を愛す。而して今日の社界まことの侠骨を容るゝの地なくして、剽軽へうけいなる壮士のみ時を得顔に跳躍せり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
金売吉次かねうりきちじだというのでありますが、これは単なる伝説のようでありまして、どこまで信じていいかわかりませんけれども、東北地方を金産地としての伝説としては、まことに面白い話であります。
法律に触れるような事をしないまでも非道ひどいずるい事をしたり、種々雑多な事をやって、立派な家に這入って、自動車なんぞに乗って、そうして会って見るとまことに調子が好くて、ひんが好くて
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姫我ことばをさへぎりて、げに/\奇なる才激せる情もて畫けるものと覺し、作者の筆の傅色ふしよく表情の一面はまことに貴むべし、さるを此の如き題(ロオトは其女子と通じたり)を選みしこそ心得られね
まことに愛のいさぎよかな、この時は宮が胸の中にも例の汚れたる希望のぞみは跡を絶ちて彼の美き目は他に見るべきもののあらざらんやうに、その力を貫一の寐顔にあつめて、富も貴きも、乃至ないしあらゆる利慾の念は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
たまはり又忠八は足輕あしがる小頭こがしらとなりて兩家共代々だい/\岡山に繁昌はんじやうせしとぞまことに君君たる時はしん臣たりと云古語こゞの如く岡山侯賢君けんくんまします故に喜内不幸ふかうにしてぼくの爲にうたるゝと雖も其いもとまた勇婦ゆうふ有て仇をうち家を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
多事、これからの多事多端、世のうつり変りは、まことに、思いやらるるばかりです。……大きな変革期かわりめのさかいにある今の日本。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まことに、こればかりは京都にも大阪にもないもので、幾度見ても飽きないけれども、外にはそんなにき着けられるものはないと云ってよい。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
浮世絵はその木板摺もくはんずりの紙質と顔料がんりょうとの結果によりて得たる特殊の色調と、その極めて狭少なる規模とによりて、まことに顕著なる特徴を有する美術たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まことに、畏れ多いことだ。旅の徒然つれづれなどのひまに、犬千代、藤吉郎などが、君前において、あけすけに寧子のことどもをお物語いたしたらしい。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爛柯亭様御在世中は一方ひとかたならぬ御高誼こうぎあずかったことであるが、貴女様には今日まで拝芝はいしの栄を得ず、失礼致しておる、然るところ先般はまことに御親切なる御書面をいただ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
君もすこやかなりしか。我もまたさいわいに余生を保ちぬと言葉もかけたき心地なり。まこと初冬はつふゆの朝初めて火鉢見るほど、何ともつかず思出多き心地するものはなし。わが友江戸庵えどあんが句に
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)