何心なにごころ)” の例文
つい、そのころもんて——あき夕暮ゆふぐれである……何心なにごころもなく町通まちどほりをながめてつと、箒目はゝきめつたまちに、ふと前後あとさき人足ひとあし途絶とだえた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのうちの一人が何心なにごころなく土産物のくるんであつた新聞紙を手に取つて見た。新聞紙は奈良のものだつたが、矢張り新しい事が載つてゐた。
客はたちま慚愧ざんきの体にてかたちを改め、貴嬢願わくはこの書を一覧あれとの事に、何心なにごころなくひらき見れば、思いもよらぬ結婚申し込みの書なりけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
(中略)下女しもをんな(中略)何心なにごころなくあぜづたひにく向うのかた、すすきのかげより思ひがけなく、下男しもをとこ横だきにして池中ちちうへなげ入れける。(中略)
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私はその草の中に立って、何心なにごころなく向うのがけながめました。今でも悪い景色ではありませんが、その頃はまたずっとあの西側のおもむきが違っていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
谷中やなかから上野を抜けて東照宮の下へ差掛さしかかった夕暮、っと森林太郎という人の家はこの辺だナと思って、何心なにごころとなく花園町はなぞのちょう軒別けんべつ門札もんさつを見て歩くとたちまち見附けた。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その日も何心なにごころなく一皿のうち少しばかり食べしがやがて二日目の暁方あけがた突然はらわたしぼらるるが如きいたみに目ざむるや、それよりは明放あけはなるるころまで幾度いくたびとなくかわやに走りき。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
市郎は我が背後うしろかすかに物の動く気息けはいを聞いたので、何心なにごころなくみかえると、驚くべしのお杉ばばあは手にすましたる小刀こがたな振翳ふりかざして、あわや彼を突かんとしているのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あめがポツ/\つてる。自分じぶんやまはうをのみた。はじめは何心なにごころなくるともなしにうちに、次第しだいいま前面ぜんめん光景くわうけいは一ぷく俳畫はいぐわとなつてあらはれてた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ジュウジュウと音を立てて暗くなって来た、私はその音に不図ふと何心なにごころなく眼が覚めて、一寸ちょいと寝返りをして横を見ると、アッ吃驚びっくりした、自分の枕許まくらもとに、痩躯やせぎすひざ台洋燈だいランプわきに出して
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
この人も死ぬる二三年前に夜遊びに出でて帰りしに、かどくちよりまわえんに沿いてそのかどまで来たるとき、六月の月夜のことなり、何心なにごころなく雲壁くもかべを見れば、ひたとこれにつきて寝たる男あり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「永久に……」と彼は何心なにごころなく考えた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
縁側えんがはきてひらき、「いざ御覽ごらんあそばさるべし」とつかふ。「一寸ちよいと其中そのなかはひつてよ」と口輕くちがるまをされければ、をとこハツといひて何心なにごころなくかごはひる。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ああ、そうですか。」と云いながら、忠一は何心なにごころなく四辺あたりを見廻したが、たちまちあッと叫んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芥川氏は何心なにごころなく封を切つて読み下したが、暫くすると可笑をかしさうににや/\笑ひ出した。するとちやう其処そこかね心安立こころやすだて滝田樗陰たきたちよいん氏が女中に導かれて、ぬつと入つて来た。
もし旅人、疲れし足をこのほとりにめしとき、何心なにごころなく見廻わして、何らの感もなく行過ぎうべきか。見かえればかしこなるは哀れを今も、七百年の後にひく六代御前ろくだいごぜんもりなり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
自分は既に述べたよう何処どこへも行く当てはない。大勢が下車するその場の騒ぎに引入れられて何心なにごころもなく席を立ったが、すると車掌は自分が要求もせぬのに深川行ふかがわゆき乗換のりかえ切符を渡してくれた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何心なにごころなく、まばゆがつて、すツとぼ/\、御覽ごらんとほ高足駄たかあしだ歩行あるいてると、ばらり/\、カチリてツちや砂利じやりげてるのが、はなれたところからもわかりましたよ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
主人あるじが先に立って奥の一室へ案内する、私も何心なにごころなくの跡について行くと、貴族の家の習慣ならいとして、広い一室の壁に先祖代々の人々の肖像画が順序正しくつらねてある。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何心なにごころなく、はしを、キリ/\と、手許てもとへ、しぼると、蜘蛛くものかはりにまぼろしあやつて、脈々みやく/\として、かほでたのは、薔薇ばらすみれかとおもふ、いや、それよりも、唯今たゞいまおもへば、先刻さつきはなにほひです
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むこうは笠を傾けて挨拶もせずに行き過ぎたが、たしかにその人らしかったとうちへ帰ってから何心なにごころなくしゃべっていたのを、禿かむろの八千代が立ち聞きして、それを八橋に訴えた。八橋はかっとなった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何心なにごころなく、背戸せど小橋こばしを、向こうのあしへ渡りかけて、思わず足をめた。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、しをらしくつたので、何心なにごころなくことばしたがつた。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
としをらしくつたので、何心なにごころなくことばしたがつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何心なにごころなく言った顔を、いぶかしそうに打視うちながめた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)