鼬鼠いたち)” の例文
そうするとあの人も見え隠れに後からついて来て、あの辺の横町でしばらく鼬鼠いたちごっこしているうちに、あきらめて帰って行ったものなの。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
庭には鼬鼠いたちや青大将や蝦蟇がまが出没した。祖母は雑巾の上から青大将を掴むと、敷石の上に叩きつけた。鼬鼠は鼠捕りを仕掛けて置くと、それによくかかった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
見ているものらには両方が分るので鼬鼠いたちごっこの二人を見て、あはあは笑いながら表だ裏だという。どちらが裏か表か分らず二人はますます困るばかりだった。
の明りに見える頭の毛は白くて、その上に黒い布をかぶっていて、姫君が来ているのをいぶかって鼬鼠いたちはそうした形をするというように、額に片手をあてながら
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのために刺戟しげきされたものと見えて、真昼間まっぴるま、ひっそりした寺内の様子をうかがって、鼬鼠いたちのように注意深い目を四方にくばりながら、竹竿を持って忍び込んで来た。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
そう言いながら、とまを伝わって舟べりを追い廻すと、お蝶も同じように逃げ廻って、彼がみよしに来れば舟尾ともの方へ、舟尾ともへ来れば舳の方へ、鼬鼠いたちごッこにかわしていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
迷信的な人は、自分の歩いて行く道路の前方を鼬鼠いたちが横断すると、直ちにあと戻りをして旅行の目的を放棄する。若し極めて大切な用事があれば、別の路を行かねばならぬ。
動物学の方からいうと、狸は犬科に属しているけれど、貛は貉やかわうそと同じに、鼬鼠いたち科に属している。貛は、本州、四国、九州など至るところに棲んでいて、体の長さは尾と共に六百三十ミリ内外。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
住居は越後の山の中の猟師ですね、壁には鼬鼠いたちのようなのが一匹と、狸かなにかの剥いだ皮が吊してあります、鉄砲も一梃立てかけてあります——この二人の夫婦の悪党が、それからが大変なのです
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
神は何故にく不思議な世界を造ったろう。何故にあるものを美しくし、あるものを殊更ことさら醜くしたろう。何故に雀の傍にたかを置き、羊の側におおかみを置き、かえるの側にへびを置き、鶏の側に鼬鼠いたちを置いたろう。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)