くろず)” の例文
直ぐ眼下は第七師團である。くろずむだ大きな木造の建物、細長い建物、一尺の馬が走つたり、二寸の兵が歩いたり、赤い旗が立つたり、喇叭らつぱが鳴つたりして居る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
道に沿うた公園の樹木は皆枝や葉をくろずませてゐた。のみならずどれも一本ごとに丁度僕等人間のやうに前や後ろを具へてゐた。それも亦僕には不快よりも恐怖に近いものを運んで来た。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
くちびるの色がくろずんでいたり、顔色が変わっていたりする以外に、どこかちがっているところがある。僕はその前で、ほとんど無感動に礼をした。「これは先生じゃない」そんな気が、強くした。
葬儀記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蠣殻かきがらのついた粗朶垣そだがきの中には石塔が幾つもくろずんでゐた。彼はそれ等の石塔の向うにかすかにかがやいた海を眺め、何か急に彼女の夫を——彼女の心を捉へてゐない彼女の夫を軽蔑し出した。……
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)