麗人たおやめ)” の例文
身近を通った跫音あしおとには、心も留めなかった麗人たおやめは、鳥の唄も聞えぬか、身動みじろぎもしないで、そのまま、じっと。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
留南奇とめきかおり馥郁ふくいくとして、ふりこぼるる縮緬ちりめんも、緋桃ひももの燃ゆる春ならず、夕焼ながら芙蓉ふよう花片はなびら、水に冷く映るかと、寂しらしく、独りしおれてたたずんだ、一にん麗人たおやめあり。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広くはあらぬ橋の歩み、麗人たおやめ背後うしろを通って、やがて渡り越すと影が放れた。そこで少時しばらく立留って、浮雲のただよう形、じっ此方こなたながめたが、思切ったさまして去った。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)