頽廃的たいはいてき)” の例文
旧字:頽廢的
ただ破壊だけを目ざす頽廃的たいはいてきな過激主義者が、木造の都市に対してその種の陰謀を企てるということは、きわめて想像しやすいからである。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
寄宿舎に閉じこめられてかごの鳥のごとく小さくなっている師範生の目から見ると、中学生の生活はまったく不潔であり放縦ほうじゅうであり頽廃的たいはいてきである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
肉色に透き通るような柔らかい絹の靴下やエナメルを塗った高い女の靴の踵は、ブルジョア時代の客間と、頽廃的たいはいてきなダンスと、寝醒めの悪い悪夢を呼び戻す。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
彼はまだそれを超越するほど頽廃的たいはいてきになってもいなければ、またそれほど人として悪摺わるずれてもいなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
離散した歌劇団の歌手たちにからんだ、頽廃的たいはいてきな浅草の雰囲気ふんいきを濃い絵具で塗り立てた作品の、呼吸の荒々しさと脈搏みゃくはくの強さには、庸三もすっかり参ってしまった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
江戸文化の終りに来ている頽廃的たいはいてきな風は、吉原に、陰間茶屋かげまぢゃやに、歌舞伎町に、役人の裏面に、町人の遊蕩に、鼠小僧の出没に——いろいろな社会層へわたって、えたる物の美しさと
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寝巻の上に半纏はんてんを引っかけて、ぷんぷんとして出て来るのでした。三十前後の頽廃的たいはいてきなポーズと声とを持った女で、いちおう美しくあるにしても、それ以上に悩ましく厄介な感じです。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
藤原氏がまつりの権を執っていたが、文化的には功績を残しても、その文化はやがて頽廃的たいはいてき懶惰らんだ爛熟らんじゅく末期まつごを生んできたばかりか、藤原一門自体が、ただ自己を栄華し、私腹をこやし、この世は
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高橋家は、累代るいだい、剣、槍、薙刀なぎなたの三法一如を唱えて、幕府の子弟に教授し、流風は地味であったが、武技そのものより士魂を尊んで、幕末の頽廃的たいはいてきな士風に、復古的な武士道教育を打ちこんでいた。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)