陰気臭いんきくさ)” の例文
昨夜ゆうべまでは少しふさぎの気味で、はたで見ているおれさえ、陰気臭いんきくさいと思ったくらいだが、この顔色を見たら、おれも急にうれしくなって、何も聞かない先から、愉快ゆかい愉快と云った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
階下は全部漆喰しっくいで商売に使うから、寝泊ねとまりするところは二階の四畳半一間あるきり、おまけに頭がつかえるほど天井が低く陰気臭いんきくさかったが、くるわき帰りで人通りも多く、それに角店かどみせ
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ればかりでなく黒ずんだ天井てんじやう壁襖かべふすまかこまれた二階のへやがいやに陰気臭いんきくさくて、燈火とうくわの多い、人の大勢おほぜいあつまつてゐる芝居しばゐにぎはひが、我慢がまん出来できぬほど恋しく思はれてならなかつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
学校を出た頃の彼は、非常に四角四面で、始終しじゅう堅苦しく構えていたから、父や母も多少彼に気をおく様子が見えた。その上病気のせいでもあろうが、常に陰気臭いんきくさい顔をして、うちにばかり引込ひっこんでいた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)