阿呍あうん)” の例文
兵法の場合でいえば——相手の器量を、剣と剣の先でじっと観澄みすましているような——阿呍あうんの息をこらしている時にも似ている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿呍あうんの間を一拶いっさつの気合、まさしく奥義の御伝授と拝察つかまつりました、御流儀の秘伝まさに会得いたしてござります、かたじけのう……」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ようやく阿呍あうんの呼吸合するのとききたったとみえて、まず江戸錦の左の腕が、じり、じりと砂の上におろされました。
這いよる宵やみのなかに剣打のひびき阿呍あうんの声が奥庭から流れてくるばかり——座敷まえの芝生には、お捕方を相手に左膳が隻腕一刀の乱劇を演じていることであろうが
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
豹吉を取り巻いている隼団の連中を兵古帯のお加代をはじめ青蛇団の連中が取巻き、龍太の拳銃とお加代の拳銃が虚々実々の阿呍あうんの呼吸をはかりながら、今にも火花を散らそうとしていた。
夜光虫 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ふたりの阿呍あうんは、雷と雷が黒雲を捲いて吠え合っているようだった。——奪られたほうがすぐその槍で突かれるのだ。渡せない。離せない。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遊ぶ心と、遊ばせる方の心とが蹌々よろよろ、歩いている間も、不即不離、つまり阿呍あうんの呼吸というものである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
押すか押し倒されるかの阿呍あうんのあひだが逆境である、張りきつた生活力がそこに湧く。人生の最高な緊張を歩みつづけることは、即ち人生の最高な眞實を味はふ事でなければならぬ。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
旋風つむじかぜのなかに龐徳の得物と関羽の打ち振る偃月刀えんげつとうとが閃々と光のたすきを交わしている。両雄の阿呍あうんばかりでなくその馬と馬とも相闘う如く、いななき合い躍り合い、いつ勝負がつくとも見えなかった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっと、それが阿呍あうんのあいだに上がるのが合図だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)