閑地あきち)” の例文
私は既に期せずして東京の水と路地ろじと、つづいて閑地あきちに対する興味をばやや分類的に記述したので、ここにもう一つ崖なる文章を付加えて見よう。
みちばたに何ほどかの閑地あきちが残されていて、そこが少し高みになった場所がある。苔蒸した石碑などが傾いたまま草むらに埋もれている。そういうところによく石地蔵いしじぞうが据えてある。
前章市内の閑地あきちを記したるじょうに述べたさめはしの如き、即ちその前後には寺町てらまち須賀町すがちょうの坂が向合いになっている。また小石川茗荷谷みょうがだににも両方の高地こうちが坂になっている。
二人は早速閑地あきちの草原を横切って、大勢おおぜい釣する人の集っている古池のなぎさへと急いだ。
われは東京市中の閑地あきち追々おいおい土木工事のためにり開かるべきことを憂ひて止まざるものなれば、やがては矢筈草生ずる土手もなくなるべしと思ひ、その一束ひとたばをわがの庭に移し植ゑぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)