長瀞ながとろ)” の例文
「……急に長瀞ながとろへ帰るからとお云いなすって、まるで鳥が立つようにすっと帰っておしまいになったんですよ」
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつぞや秩父の長瀞ながとろ見物に行って来た人が「どうもいい景色ですな、あんな所は山の中にもそう沢山はありますまい」というて、その話をして呉れたことがある。
渓三題 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
また、奥秩父から刄のような白き流れを武蔵野へくだしてくる隅田川の上流荒川も、奇勝長瀞ながとろを中心として今年は震災後はじめて東京湾から鮎の大群が遡ってきた。
香魚の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
長瀞ながとろ、国府津、箱根、湯河原、熱海、修善寺、等へ殆ど毎年の様に旅行されていた。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
とろりと澄んだ濃藍の長瀞ながとろに、樹の梢は、すくすくと延び上つて、水鏡をしてゐる、川はひつそりと音もなく、蒸々じよう/\と立ちのぼる峡谷の朝霧の底を、櫓の音が、ギイギイと静かにひゞく
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
山里丸やまざとまるの一加番が越前大野の土井能登守利忠どゐのとのかみとしたゞ中小屋なかごやの二加番が越後与板よいたの井伊右京亮直経うきやうのすけなほつね青屋口あをやぐちの三加番が出羽では長瀞ながとろ米津伊勢守政懿よねづいせのかみまさよし雁木坂がんきざかの四加番が播磨はりま安志あんじの小笠原信濃守長武しなのゝかみながたけである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
強石から膝栗毛をガタ馬車に乗り替えて、といしの如き大道を金崎に着いた。汽車を待つ間の時間が長いので宝登山まで歩くことにする。長瀞ながとろを見物して帰ってもまだ時間が余っている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)