銅羅どら)” の例文
「おい、みんな。これは遭難の前触まえぶれに決った。お前たちは、すぐ部署ぶしょにつけ。おい事務長銅羅どらをならして、総員配置につけと伝達しろ」
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
最初の銅羅どらが暁を破ると見送人達は鉄梯子てつばしごを下りて対岸に並ぶと、二度目の銅羅と一斉にわめき出す。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
私たちはここでまた余るほどの買物が出来た。はぎ編籠あみかご銅羅どら、甕、壺、徳利とっくり、紙、銀細工、竹細工、扇子せんす団扇うちわくしなど。実に旅に出てから市日を追うこと九日間に十二回。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
みんな乾涸らびた思ひ出の匂ひにみて僕の全ての現実はたとへば磯にゐて今追憶に耽ることさへ、それも亦古い幻の風景のやう、ゆらゆらと、風に孕まれて鈍い出帆の銅羅どらが鳴るが
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
汽船から借りて來た汽笛代用の喇叭らつぱを吹いたが、さういふ用意がないので、僕は下手な調子で銅羅どら聲を張りあげ、清元やら、長唄やら、常磐津から、新内やら、都々逸やらのお浚ひをして歩いた。
日高十勝の記憶 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
或日わたくしは、銅羅どらならしながら街上を練り行く道台トウタイの行列に出遇った。また或日の夕方には、大声に泣きながら歩く女の列を先駆にした葬式の行列に出遇って、その奇異なる風俗にまなこを見張った。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
メルキオルの銅羅どら声が叫んだ。