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鉢前
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はちまえ
ややありて渠は
鉢前近く忍び寄りぬ。されどもあえて
曲事を行なわんとはせざりしなり。
渠は再び沈吟せり。
寄席へ行った
翌朝だった。お
蓮は
房楊枝を
啣えながら、顔を洗いに
縁側へ行った。縁側にはもういつもの通り、銅の
耳盥に湯を汲んだのが、
鉢前の前に置いてあった。
此処だけの別な
前栽があって、その向うに、
楓の老樹の新緑を透かして持仏堂の
甍が見え、
石榴が花を着けている
鉢前のあたりから
那智黒石を敷き詰めた
汀へかけて、
夥しい
木賊が生えているのを
思いも寄らぬ
蜜柑の皮、梨の
核の、
雨落、
鉢前に飛ぶのは
数々である。