鉢前はちまえ)” の例文
ややありて渠は鉢前はちまえ近く忍び寄りぬ。されどもあえて曲事くせごとを行なわんとはせざりしなり。かれは再び沈吟せり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寄席よせへ行った翌朝よくあさだった。おれん房楊枝ふさようじくわえながら、顔を洗いに縁側えんがわへ行った。縁側にはもういつもの通り、銅の耳盥みみだらいに湯を汲んだのが、鉢前はちまえの前に置いてあった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此処ここだけの別な前栽せんざいがあって、その向うに、かえでの老樹の新緑を透かして持仏堂のいらかが見え、石榴ざくろが花を着けている鉢前はちまえのあたりから那智黒なちぐろ石を敷き詰めたみぎわへかけて、おびただしい木賊とくさが生えているのを
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
思いも寄らぬ蜜柑みかんの皮、梨のしんの、雨落あまおち鉢前はちまえに飛ぶのは数々しばしばである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)