鉄鉢てっぱつ)” の例文
旧字:鐵鉢
宗旨はなんだか知らないが、尼はきょうも隣り村へ托鉢に出たとみえて、片手には鉄鉢てっぱつをささげていた。片手には珠数をかけて、麻の袋をさげていた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あかつきやぶれた法衣ほうえを着て、長く伸びた髪を、眉の上で切っている。目にかぶさってうるさくなるまで打ちやっておいたものと見える。手には鉄鉢てっぱつを持っている。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鉄鉢てっぱつを両手で捧げた者、猛虎を足に踏まえた者、香炉に向かって坐っている者、合掌し結跏けっか趺坐ふざしている者、そうして雲竜にしている者……千態万状の羅漢の像が
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寺院おてらの入口に立つまだ年若な一人の尼僧あまさんが岸本に近づいた。遠く東洋の空の方から来た旅人としての彼を見て何か寄附でも求めるらしく鉄鉢てっぱつのかたちに似た器を差出して見せた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは一休の持ったという鉄鉢てっぱつと、頓阿弥とんあみの作ったという人丸の木像であった。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)