金盞花きんせんか)” の例文
今、彼のすぐ眼の前の地面に金盞花きんせんかや矢車草の花が咲き、それから向うの麦畑のなかに一本のなしの木が真白に花をつけていた。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
こいつは簡単な方法で煙草でも玉蜀黍とうもろこしでも大成功、金盞花きんせんかという花では、この薬を使って直径が普通の倍もある見事な花を咲かせたそうです——
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
小さな躑躅つつじ金盞花きんせんかなどの鉢植はちうえが少しずつ増えた狭い庭で、花を見降している高次郎氏の傍には、いつもささやくようなみと子夫人の姿が添って見られた。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
窓の下には背の低くて小さい向日葵ひまわりと、赤がちの黄の金盞花きんせんかが咲いていた。セーニャははいり口から飛び込むと、もう窓に顔を見せて、ぴっと下唇を尖らした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
佐野も妾のために夢中だったのです。妾達はショコラ酒を飲んで、金盞花きんせんかの花と共に寝床に埋れました。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
緋桃ひとうが、連翹れんぎょうが、樝子しどみが、金盞花きんせんかが、モヤモヤとした香煙の中に、早春らしく綻びて微笑わらっていた。また文弥君が、最前の短歌を繰り返し繰り返し、朗詠しだした。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そして、帰りに下のお寺に金盞花きんせんかが綺麗に咲いてゐましたので、それを買つて来てさしてゐましたら、安成さんがゐらしたのです。三時の汽車でお帰りになりました。
夏水仙や金盞花きんせんか突羽根草つくばねそう燕子花かきつばた、小川のふちには雪かとばかりの花が白々と乱れている。遠く見渡せば丘をめぐって焔のような躑躅つつじの花が燃え立つばかりに咲いている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その先は湯殿と、便所と物置で、隣境いの黒板塀との間に金盞花きんせんかが植えてある。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)