酔眼すいがん)” の例文
旧字:醉眼
撞木町の升屋ますやの提灯をさげた若い者が、駕籠を連ねて、迎えに出ていた。おんなたちは、それへ乗ったが、内蔵助は、酔眼すいがんをみはって
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袋猫々が入って来たのをおどろきもせず、不思議がりもせず、朦朧もうろうたる酔眼すいがんの色をかえもせず、依然として酒を浴びるように口の中へ送っている。
和田は酔眼すいがんを輝かせながら、声のない一座を見まわした。が、藤井はいつのまにか、円卓テエブルに首を垂らしたなり、気楽そうにぐっすりこんでいた。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この怪物は酔眼すいがんをまどわす幻影なのではあるまいか。それともおれは今、悪夢にうなされているのかしら。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
倒れたきりで仰向けに酔眼すいがんをトロリと見開いて見ると、夜気さわやかにして洗うが如きうちに、星斗せいと闌干らんかんとして天に満つるの有様ですから、道庵先生、ズッと気象が大きくなってしまいました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
数千匹の黄蟹きがにが何者かに追われて必死に逃げまわるように、私の酔眼すいがんにうつって来た。今宵は蟹のお祭りだ。今夜は風の宴だ。遁走とんそうする蟹の大群の後方から、風がひょうひょうと音立てて吹きつけた。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
こういう女客も、稀にはあるとみえて、居酒屋の者は笑っていたが、ふと、隅に寝ていた牢人者が、むっくり酔眼すいがんをさまして見送っていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
リーロフ大佐は、それでもあきらめかねたか、酔眼すいがんをこすりながら、太刀川のそばに近づくと、たくましい腕をふりあげて、太刀川をなぐりつけようとした。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、酔眼すいがんをみはって見廻したとたんに、ひさしの上を、しゅるしゅるッと、力のないれ矢の這う音がした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)