酒匂川さかわがわ)” の例文
酒匂川さかわがわを越えると、並木の風にも、北条氏三代のきびしい秩序が、颯々さっさつと、威厳をもって、旅人を襲ってくる。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尊徳先生は親代々の六段八という田地を、酒匂川さかわがわの水のために二度まで持って行かれてしまいました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
全体鮎の味は川によって違います。玉川の鮎よりは相模川さがみがわの鮎が上等ですし、相模川の鮎よりは酒匂川さかわがわの鮎が一層優っています。また同じ川でも場所によって味が違います。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
小田原の手前に酒匂川さかわがわという川がある。まだ禁漁中にあの近辺のひとが酒匂川のあゆをよく盗み取りするが、わたしはそれをもらうことがあって、たびたび食ったことがある。
若鮎について (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
東海道の川々、大抵は舟渡しで、大井川と酒匂川さかわがわだけは特別に台輿または肩クマで渡した。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
震災後の十月十五日に酒匂川さかわがわの仮橋を渡った。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、まず前提して——そしてその推定から尊氏軍の進路をはかってゆくと、彼が酒匂川さかわがわ附近へさしかかった頃には、おそらく、箱根山中にとりかこまれていた弟直義ただよしの孤軍からも
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから料理方りょうりかたによって味の違うは、勿論もちろん、鮎によって料理方を違えなければなりません。酒匂川さかわがわの鮎は色が青くって脂肪分がすくないからすしに製したり酢の物に料理すると色も変らず味が結構です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
北は酒匂川さかわがわを総堀となし、南は三枚橋、湯本、箱根、石垣山まで取入れ総構えとなし、東は海を限り、西は箱根山の尾先へ続き、その広大なることは日本無双、城中には矢種やだね玉薬たまぐすりは山の如く貯え
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
酒匂川さかわがわの上流で、井細田村いさいたむらと足柄村にまたがっている小さい部落だった。五、六軒しかない筏流いかだながしを職とする土民の家もみな寝ているうちに、そこの一軒だけが、かすかに、破れ窓から灯影を見せている。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)