都門ともん)” の例文
つい先頃まで、禁軍八十万の師範役をしていたものですが、新任大将軍高俅こうきゅうと折合いのつかぬことがあって、無断で都門ともんを逃亡し、いわば天下のお尋ね者の身の上です。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都門ともんの劇場に拙劣なる翻訳劇出づるや、朋党ほうとう相結あいむすんで直ちにこれを以て新しき芸術の出現と叫び、官営の美術展覧場にいやしき画工ら虚名のしのぎを削れば、猜疑さいぎ嫉妬しっとの俗論轟々ごうごうとして沸くが如き時
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
らいてうさま、あなたのお健康からだは、都門ともんを離れたお住居すまいを、よぎなくしたでございましょうが、激しい御理想に対してその欲求おのぞみが、時折何ものも焼尽やきつくす火のように燃え上るおりがございましょう。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
都門ともんの春はもう余程深くなった。満目の新緑も濁ったように色が濃くなって、暗いまでに繁り合いながら、折からの雨に重く垂れている。その中に独り石榴ざくろの花が炎をあげて燃えている火のように赤い。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこで、官を辞し、都門ともんを去って、十三年ぶりで、郷里下総の豊田郷へ、二十九歳で帰って来た。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都門ともんの劇場に拙劣なる翻訳劇づるや、朋党ほうとう相結あいむすんで直ちにこれを以て新しき芸術の出現と叫び、官営の美術展覧場にいやしき画工ら虚名のしのぎを削れば、猜疑さいぎ嫉妬しっとの俗論轟々ごうごうとして沸くが如き時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここに現われた者は、林冲の難を聞いて、都門ともん開封かいほうから後を追ってきた花和尚かおしょう魯智深ろちしんだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江西こうせいへの旅は遥かだった。しかし、旅にはよい仲春ちゅうしゅんの季節でもある。禁門の大将軍洪信こうしんは、おびただしい部下の車騎しゃきをしたがえて、都門ともん東京とうけいを立ち、日をかさねて、江西信州の県城へ行きついた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)