身躾みだしな)” の例文
と麗人糸子は、憔悴しょうすいした面に身躾みだしなみの頬紅打って、香りの高い煎茶の湯呑みを捧げ、帆村の深呼吸をしているバルコニーに現われた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
の儀ではありませぬが、介錯人が、腕に聞えのある高安平四郎とあれば、私も身躾みだしなみして、立派に死にたいと存じます』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
綱手は、正気の無い兄、小太郎の身体を案じ、斬り刻まれた亡骸なきがらを埋めている父を悲しむと共に、こうした場合の自分の身躾みだしなみについても、細かい用意をしなくてはならなかった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
古いが、柄の良い、折目正しい銘仙の袷は、ひどくもみくちやになつて居りますが、何んとなく身躾みだしなみのよさを思はせ、寢床から拔け出してフラフラと外へ出たものでないことは明かです。
やがていつもの土塀門どべいもんへ近づいて来ると、そこにたたずんで、客を待ち顔の佳人かじんの姿が見えた。いつぞや見た折よりも、美しく身躾みだしなみをしたおゆうであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の身躾みだしなみの一つであるポケット・ランプをパッと點けると、まずネオン横丁の入口に最も近いカフェ・オソメの前にしゃがんで戸口の前や、ステンド・グラスの入った窓枠まどわくなどを照し
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
甚助は、云われた通り、身躾みだしなみを作って、後から仏間へ行ってみると、母と守人がじゃくとして坐っていた。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄のいる床几場しょうぎばへ戻って、身躾みだしなみをつくろい、兄の半兵衛も、具足をって、涼やかな平服に着かえるのを待ち——それから間もなく、ふたたび陣所を出て行った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)