身裡みうち)” の例文
フト軽い寒氣が身裡みうちに泌みた。見ると日光ひかげは何時か薄ツすりして、空氣もそらも澄むだけ澄みきり、西の方はパツと輝いてゐた。其處らには暗い蔭が出來た。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そして、三年前彼がはじめて「グーセフ」を読んだ時から残されている骨を刺すような冷やかなものとうずくような熱さがまた身裡みうちよみがえって来るのでもあった。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それは、結局はやはり病にむしばまれた彼の生気を失った肉体が原因であったのであろうか。——だが、時々は過去において彼をとらえた情熱が、再び暴風のようにその身裡みうちをかけ巡ることがあった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
而ると何といふことは無く其所らが怖ろしくなつて、かすか惡寒をかん身裡みうちそよいで來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
彼も首を振るい、自棄やけくそに出来るかぎりの声を絞りだそうとした。疲れて家に戻ると、怒号の調子が身裡みうちに渦巻いた。……教官は若い一組を集めて、一人一人に点呼の練習をしていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
だが、彼はふと、いつもきっさきのように彼に突立ってくるどうにもならぬ絶望感と、そこからね上ろうとする憤怒ふんぬが、今も身裡みうちを疼くのをおぼえた。殆ど祈るような眼つきで、彼は空間を視つめていた。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)