趺坐あぐら)” の例文
其れに切腹の場に立会ふ立烏帽子たてゑぼしを着た二人の勅使が「勅使」を前にてさせて臨場し、草鞋穿わらぢばきまゝ上段の趺坐あぐらを掻き
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そこの濱邊に十掬とつかの劒を拔いて逆さまに刺し立て、その劒の前に趺坐あぐらをかいて、國讓りの談判を迫られたといふ時、大國主の神がひそかに使者を小舟に乘せて助言を求めたのも
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この暑い一室に相対して、趺坐あぐらをもかかず、二人はすくなくとも一時間以上語った。話は遂に要領を得なかった。「先ず今一度考え直して見給え」くらいが最後で、時雄は別れて帰途に就いた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
中に一ぺんの丸木船に杓子しやくしの様な短い櫂を取つて乗つて居る丸裸の黒奴くろんぼ趺坐あぐらをかきながら縦横に舟を乗廻してしきりに手真似でぜにを海中に投げよと云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
総じてへやの一体の装飾かざりが、く野暮な商人あきうどらしい好みで、その火鉢の前にはいつもでつぷりと肥つた、大きい頭の、痘痕面あばたづらの、大縞おほしま褞袍どてらを着た五十ばかりの中老漢ちゆうおやぢ趺坐あぐらをかいて坐つて居るので
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)