赤前垂あかまえだれ)” の例文
赤前垂あかまえだれはずしましたが、貧しい木綿物の単衣ひとえも、素足の可愛らしいくるぶしも、人を恐れぬ野性的な眼差まなざしも、お大名の土佐守には、全く美の新領土です。
天の橋立の赤前垂あかまえだれにでもタタキ売って、生恥いきはじさらさせてくれようものを……という大阪町人に似合わぬズッパリとした決心を最初からきめていたのであった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私が振返ってすっかり青葉になってしまった桜を眺めている間に、羽織姿の桃割ももわれ赤前垂あかまえだれ丸髷まるまげとが交って踊り出した。見物人の間に立って私はしばらく見ていた。
祇園の枝垂桜 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
涼しくば木の芽峠、音に聞こえた中の河内かわちか、(ひさしはずれに山見る眉)峰の茶店ちゃや茶汲女ちゃくみおんな赤前垂あかまえだれというのが事実なら、疱瘡ほうそうの神の建場たてばでも差支えん。湯の尾峠を越そうとも思います。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤前垂あかまえだれの小女が
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな話をしているところへ、赤前垂あかまえだれに、型のごとく片襷かただすきをかけたお常が、真鍮磨しんちゅうみがきのかまから湯をくんで、新しい茶を入れて持って来てくれます。
右に、湯尾峠の万年姥まんねんうば。針のごとき白髪しらが朽葉色くちばいろ帷子かたびら赤前垂あかまえだれ
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)