謡曲ようきょく)” の例文
旧字:謠曲
すると、朝倉先生が、急にいずまいを正し、謡曲ようきょくでもやりだしそうな姿勢になった。みんなは急にしんとなって、片唾かたずをのんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
自分はすぐ、この奥まった座敷ざしきに独り残って、好きな謡曲ようきょく稽古けいこをはじめた。あれから何刻なんどきも経っていないはずである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
下流の方のは「葛」の字をて、上流の方のは「国栖」の字を充てて、あの飛鳥浄見原天皇あすかのきよみはらのすめらみこと、———天武てんむ天皇にゆかりのある謡曲ようきょくで有名なのは後者の方である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしはかつて謡曲ようきょくや狂言を読んでインド劇との関係を空想したことがある。確かにそれは空想である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
右のゼガイソウは、すなわち善界草ぜんがいそうで、これは謡曲ようきょくにある赤態しゃぐまけた善界坊ぜんがいぼうから来た名である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「おととしよりは去年、去年よりはことし、あれほどお好きな謡曲ようきょくにしても、近ごろは、おうたいも極く稀じゃし、興にのって、仕舞しまいをあそばすようなことも、とんとないのを見ても」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謡曲ようきょく羽衣はごろもの一節、がらになく風流なところのある男で、大迫玄蕃が、余念なくおさらいにふけっていると、夜はいぬ上刻じょうこく、五ツどき、今でいう午後八時だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
菜摘の里と云えば、謡曲ようきょくの「二人静ふたりしずか」にうたわれている菜摘川の岸にあるのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もしそのとき既に縛ってあったものなら、うに気がついておらねばならぬ——すると、それ以来、一歩も部屋を出なかったか? 出なかった! ずうッとここにおって、謡曲ようきょくをさらっておった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)