謄写版とうしゃばん)” の例文
とかくにこの種の痴漢が出没するから婦人の夜間外出は注意しろと、町内の組合からも謄写版とうしゃばんの通知書をまわして来たことがある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
謄写版とうしゃばんの『草の実』は、すぐ火鉢ひばちにくべられた。まるで、ペストきんでもまぶれついているかのように、あわてて焼かれた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
謄写版とうしゃばんのまちがいではないかと私は思っていた。で、その後その店員の顔を見た時、さっそく訊いてみると、やっぱり五百八十何円とやらいった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次郎は今朝から事務室にこもって、第十回の塾生名簿じゅくせいめいぼ謄写版とうしゃばんで刷っていたが、やっとそれが刷りあがったので、ほっとしたように火鉢ひばちに手をかざした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
労働組合では、書記長の勝則が、同志たちと、謄写版とうしゃばん刷りの「組合ニュース」や、ビラなどを次々に作って、仲仕たちの闘志をあおることに努力していた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
謄写版とうしゃばん刷りの、うすっぺらな雑誌を、一冊ずつくばってくれた。タツは『赤煉瓦あかれんが』という名前が、局の工場がみな煉瓦建物だから、そこからとったのだと気がついた。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
翌朝はまだ暗いうちから取り騒いだが、大洋の黎明しののめは何ともいえずすがすがしかった。そのうちに珈琲コーヒーが来る。謄写版とうしゃばん刷の高麗丸新聞が配られる。この第二日もいい凪であった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
朝野はふところから五十枚ばかりの往復端書はがきを出した。謄写版とうしゃばんで刷った浅草の会の案内状である。第一回を、かねて話していた通りにK劇場の連中を呼んで行なうことになった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
その年の秋、日光から足尾あしおへかけて、三泊の修学旅行があった。「午前六時三十分上野停車場前集合、同五十分発車……」こう云う箇条が、学校から渡す謄写版とうしゃばん刷物すりものに書いてある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たいへん読者からの反響があって、雑誌が出ると、その問題を謄写版とうしゃばんに刷り、同僚たちにくばって、早く正しく解く競争をやっているという投書があったりして、はなはだ愉快である。
「手伝えるなら手伝ってもらうよ。謄写版とうしゃばんで本を写すんだ。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
列席した父兄の名簿が謄写版とうしゃばんずりにして渡されていたが、その中には、平尾、田上、新賀、梅本、大山、そのほか、よかれあしかれ教師側の注目をひいている
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのうちに、二三名の塾生が事務室にはいって来て、すみの机で謄写版とうしゃばんをすりだした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)